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ナイトライド・ストーリー

Chapter 26

弊社の定時株主総会も無事終了し、あっという間にお盆を迎えることになった。この間、参議院選挙にて自民党が惨敗し、安倍首相への批判が噴出しているが、政権運営、危機管理能力に欠けることが露呈してしまった今となっては、継続は困難と思われる。「美しい日本」を理想とする「美しくない首相」といったところか。組織のトップが、いかに重要かを思い知らされる選挙だったと思うが、日本の代表が、この程度の人物で、未だその地位に留まっていられる甘い社会を思うと、末恐ろしささえ感じる。株で言えば、日本株は明らかに売りだ。こんなだらしない組織に将来は期待できない。泣いて馬謖を斬るのが当たり前なのに、馬謖ほど有能でもない家臣を擁護して、国を危機に陥れるとは、もうつける薬がない。私のような1ベンチャー企業の経営者が、申し上げるのも僭越であるが、国の将来を思っての苦言なので、容赦願いたい。

まず、選挙前に、選挙結果如何にかかわらず続投するなどと発言すること自体、トップにあるまじきことだ。小泉前首相が郵政民営化を巡って解散総選挙に臨み、国民の圧倒的支持を得たのと、全く逆のことをやっている。一方、民主党の小沢代表は、負けたら責任を取って議員を辞職すると明言していた。安倍首相は、戦う前から、負けを認めていた。総大将が、戦に臨む前に負けを認めていたら、家臣は馬鹿らしくてやっていられない。私は、選挙前、必ずしも野党が優勢とは感じていなかった。なぜなら、野党の党利党略がただ単に与党の政策を批判、反対するだけで、具体性に欠けていたからである。だから、私は、選挙の戦い方如何では、与党にも十分勝ち目はあると思った。しかし、この発言で、勝敗は決まった。

そもそも閣僚人事で、自らが任命した4名の閣僚が辞めるという人事責任だけで、辞めるのに十分な理由になると思うが、それらの事件への対処方法が、またよくない。致命傷になったのは、赤城農林相の絆創膏事件だ。前大臣が、政治資金問題で自殺に追い込まれたことも異常だが、追い討ちを掛けるように、後任が、事務所経費を指摘され、絆創膏を貼ってカメラの前に立ち、煮え切らない説明をした。国民のすべてが、なぜこんな人達が大臣をやっているのか、こんな人達に国政を任せられないと感じたと思う。日本国民の頂点に立つ首相や大臣は、あらゆる局面においてプロフェッショナルとして、日本国民の模範、理想となるべき存在でなければならない。ましてや、首相に過ちは許されない。「馬謖を斬る」厳しささえ持ち合わせないトップが難局にある日本を引っ張っていけるとは到底思えない。結局、大勢の家臣を失う結果となった。

私も、7年前、社長になったばかりの頃は未熟であり、役員や従業員の採用や処遇を巡って社内に混乱を招いたことがあった。しかし、その混乱は、適切に対処すれば、組織を浄化するための必要悪として解釈される。ところが、対処を誤ると、トップの責任問題に発展してしまう。今回の首相の閣僚人事ミスを大目に見るとしても、対処法が悪すぎる。我々のような小さな会社でさえ、トップが求心力を失えば経営困難になる。それが、日本国ということになれば、もう統率することは絶望的と言っていいだろう。村上ファンド事件後も地位に留まる日銀総裁。そして、今回の首相と、一体、日本の美しい武士道はどこに行ってしまったのか。本来、どんな些細なことであろうと、一挙手一投足に関して切腹するぐらいの緊張感が、人の上に立つべき者には求められるべきではないか。二世議員は、地盤があるから、苦労を知らない。これは企業経営も同様である。創業者のみが知り得る苦難の道程から導き出された哲学と同様の政治哲学が要求されるのだと思う。それは偏見だと思う人は、本質がわかっていないだけだ。

人を判断する場合、手っ取り早い見分け方がある。それは眼力の強さである。小泉前首相には強力な眼力があった。だから、自民党内の反対を押し切って改革を断行できた。一方、安倍首相の目は、改革者の目ではない。男前だが平凡な目だ。スポーツ選手、画家、音楽家等、どんな分野においても一流になる人には、眼力がある。残念ながら、安倍首相がどんなに一生懸命マイクの前で改革断行を力説しても、眼力が感じられない。なぜ人によって眼力に差があるのかわからないが、人生を必死に戦ってきた者には眼力が宿る。

私は、前年度の決算が経常黒字だったとご報告したが、黒字にするための執念たるや、凄まじいものである。我々のような研究開発型のベンチャー企業が、従来通り、普通にやっても黒字にはなりえない。売れるものは、何でも売り、一方、極限まで経費を切り詰め、餓死寸前のところで生き延びるという芸当をやってのけたのだ。日本社会では、政治家や行政に、そのような緊張感を期待することは難しいことなのだろうか。我々製造業は、製品で判断されるので、誤魔化しが利かない。他社の製品と性能、品質、価格、アフターサービス等、すべての点で勝っていることを要求される。それも国内だけでなく、国際競争に晒され、毎日、生きるか死ぬかの真剣勝負をしている。

一方、公務員は、安定した雇用環境の中で、労働組合の働きもあって、一生懸命仕事をすることが逆に許されないという異常な状態になっている。このような緊張感のない馬鹿げた社会に将来があるだろうか。公務員の給与の算定根拠が、よくわからないが、企業と同様に、歳入と歳出がバランスするようにすることが、今の行政の役割の最優先課題だろう。赤字が巨額すぎて人件費抑制くらいでは焼け石に水だから、カットしないどころか、国債を増額して、ベースアップするという異常性を是正しなければ日本はよくならない。国民は、今回の選挙で、年金問題を契機に、行政の堕落ぶりと閣僚の何気ない態度や、発言の浮世離れした感覚を重ね合わせて、ノーという判定を下したのだと思う。

本来、年金問題は、その財源等から制度の存続自体を根本的に議論するべきところを、その大前提である事務処理問題で、つまずいてしまっている。

私は、政府の進める改革路線自体は正しいと思う。しかし、それを推進するトップの資質としては、いかがなものかと申し上げている。改革を強力に推し進めようとすればする程、問題や事件が発生する。そのときにトップが的確に対処しなければ、改革は進められない。もし、安倍首相が改革路線を本気で進めようという強固な意思があったとすれば、参院選においても、過半数を確保する必要があった。なぜなら、法案は、両院で可決しなければ通らない。衆議院を与党圧倒的多数で可決しようが、参議院で圧倒的多数で否決されるようにしてしまっては、法案は通過しない。結局、安倍政権では、このまま存続しても改革を進められないということだ。だから、心機一転新しい内閣が必要と思うのだが、皆さんは、どうお考えだろう。それは、野党への政権交代という意味ではない。残念ながら、今の民主党には政権を担うほどの実力はない。自民党の中から、小泉首相のように火達磨になって改革を実行する首相が出てきて欲しい。

以上、今回は、国政に関して厳しい意見を申し上げたが、国の頂点に立つ者の宿命として、厳粛に受け止めて欲しい。

平成19年8月9日

トップの責任

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