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ナイトライド・ストーリー

Chapter 31

お陰さまで、第8期定時株主総会を無事終了し、世の中全体にネガティブな話題が先行する中にあっては、明るい展望を持てる状況になった。これも、ひとえに皆様のご理解とご支援によるものと心より御礼申し上げます。

さて、原油、穀物、レアメタルを始めとして物価の高騰が止まらないが、ITバブル、サブプライムローンの次は、物価バブル崩壊が待ち受けている。以前触れた通り、人類は、約4百年前のチューリップ球根バブル以降バブルを繰り返してきた。今回の問題も、そのような意味からすれば、騒ぐほどのことではないのかもしれない。しかし、奢好品としてのチューリップや金融商品の乱高下と、物価の乱高下は全く意味が違う。私は、全く株をやらないので、株価が下落しても痛くも痒くもないが、物価となるとそうはいかない。

企業経営の観点からは、原材料価格が高騰する一方、ユーザーからの値引き要求は厳しくなり、板挟みになっている。また、従業員に対しても、物価上昇分を昇給で補わなければ、生活レベルが低下することになる。昇給がなくても、従来のようなデフレ基調であれば、従業員も生活に困窮することはない。

この問題は大変根が深い。以前にも指摘した通り、実需を伴わない相場は長続きしない。確かに中国、インド、ロシア等新興国の需要が急激に増えているが、それが物価を数倍も押し上げることはない。従って、これら原材料の高騰も近いうちにはじける。そうなった時、サブプライム問題の損失と同様に国が肩代わりするのか。ギャンブルで被った損失を国が肩代わりしてくれるなら、誰でもギャンブルをやる。米国は、エンロン事件のように企業の粉飾決算に関しては責任追及を徹底的にやっておきながら、サブプライム問題に関しては追及が甘い。あまりにも損失が大きすぎ、若しくは、仕掛けが巧妙だったので責任が追及しにくいということか。不動産価格の上昇を前提とした馬鹿げた借り換えの仕組みを債権化したファンドと金融機関の責任を追及し、二度とこのようなことが起きないようにすべきだ。そうすれば、今の原油高騰も防げたかもしれない。私は、FRB連邦準備制度理事会アラン=グリーンスパン前議長ほどの人物であれば、問題点を把握していた筈と書いた。足腰の弱った米国経済を救うためには、背に腹は代えられなかったということか。いずれにせよ、物価に悪影響を及ぼすようなギャンブルだけは絶対に許すべきではない。


さて、昨今、「名ばかり管理職」「QC活動」などと、労働問題が騒がしくなっている。具体的な争点はケースバイケースであり、個々の事情に従って解決すべきだが、企業の競争力と人権のバランスの問題であり、簡単に結論付けることはできない。

トヨタ自動車の強さの源は、QC(品質管理)サークル活動など、従業員の自主性によるところが大きい。トヨタは、そのQC活動に関して残業代2時間を上限に支払っていたのを、5月いっぱいで撤廃するとした。これは、元従業員の男性が急死した件に関して、昨年11月名古屋地裁が元従業員の男性の死亡を過労死と認定したことによる。建設重機のコマツもQC活動に残業代を払うと発表した。

このことから多くの事実が読み取れる。これら東証1部上場、世界のトップ企業でさえ、QC活動の一部にしか残業代を支給してこなかったことがわかる。労働基準法によれば、労働時間の定義は、「会社の指揮命令下にある時間又は黙示の指示により業務に従事する時間」とあるので、会社の指揮命令下、黙示の指示があったかどうかが争点となる。2時間の残業代を支給していたということから、QC活動を業務と認識していたことは間違いない。もしトヨタが、4万人の従業員に対して、過去2年分のQC活動に係る残業代をタイムカード通り支払ったら決算は大幅に悪化することになる。

企業経営というのは、「乾いた雑巾を更に絞る」とトヨタが揶揄されるように、支出全般に厳しい管理が必要である。支出にシビアなのは、何も従業員の給料だけではない。原材料の購入、その他生産効率を向上するために、ありとあらゆる手段を講じて原価低減の努力をしている。「カイゼン」と「カンバン」という世界語を生み出したトヨタの強さの源泉は、言い方を変えれば、支出に対する厳しい経営姿勢と言ってもいい。

優良企業に共通する条件として、支出管理の厳しさと共に、従業員に対する厳しさが挙げられる。営業であれば、売上ノルマ、製造であれば、生産効率の向上ノルマが課せられる。一般的に労働組合が強い企業の製品やサービス内容が劣り、結果として業績も芳しくないことからもその傾向は見てとれるが、良い製品、良いサービスを提供するためには、従業員にはこのような厳しさが要求される。これは、勘違いしてはいけないのは、経営側が従業員に対して厳しくするということではなく、顧客が製品、サービスに厳しい要求をするので、経営側としても、競合との競争に打ち勝つためには、従業員に対して厳しく要求せざるを得ないということである。経営の良くない会社は、従業員に対して厳しい態度が取れず、結果として、製品、サービス内容が競合より劣ることになる。いわゆる「勝ち組」と「負け組」の差は、この違いである。大体において、その会社に電話を一本かければ、その応対方法で会社のレベルは推測できる。それは、アフターサービスになれば更に明らかになる。こういう従業員の管理、指導、教育、躾こそが、コンプライアンスで重視されるべきである。

弊社は、早朝、従業員が自主的に出社し、清掃作業に従事していると記述したが、このような日本人の美徳といえるような習慣は継続していかなければならない。

先週の新聞に年間自殺者の統計が載っていたが、総数3万人のうちの一割にあたる3千人が会社経営者だ。そもそも経営者の数が少ないことを考慮すると、非常に高い割合と言える。経営者は、従業員と違い最低賃金保証も失業保険もない。60年代後半の日本の高度経済成長時代には、経営側の労働者搾取といった劣悪な作業環境と安い賃金がきっかけとなって労働争議が頻発したが、時代は変わり、円高もあって日本の労働者の賃金水準は、世界トップクラスになった。また、従来の終身雇用という概念も形骸化し、雇用条件が気に入らなければ転職するというように雇用情勢も様変わりした。今や、厳しい国際競争と原材料高の影響も加わって、労動者と経営者の地位の逆転現象が起きている。

日本は、今岐路に差し掛かっている。このような労使関係を見ても明らかな通り、従来日本を支えてきたシステムが、社会の実情に合わなくなっている。年金もそうだ。そもそも、年金のシステムは、右肩上がりの物価及び賃金上昇が前提になっており、既に実現が不可能であることを露呈している。また、後期高齢者医療の問題にしても、財政再建論議はどこかに飛んでしまい、政党の人気取りが優先課題になってしまった。

このような馬鹿げた社会にしてしまった中高年が、無差別殺人を犯す若者を責められるだろうか。今の子供や、これから生まれてくる子供が、生まれた瞬間から身に覚えのない1千万円近い借金を背負わされ、彼らがもらえるあてのない年金や医療費を、何十年も払い続ける理由を説明できるだろうか。

確かに高齢や障害で入院し、医者に掛かっていらっしゃる皆さんの窮状は、想像を絶するものがあるだろう。しかし、これから半世紀後に高齢者になり、同じような境遇になる若者との公平性を保つ作業は間違いなく必要になる。今は借金で治療できたとしても、そんなことを認めれば、将来の高齢者は、財政破たんして制度自体がない可能性がある。そうだとすれば、この際、制度自体を辞めてしまい、自己責任とするという解決策だってある筈だ。 いずれにせよ、高齢者と若者が、お互いに納得できる解決策を見つける必要がある。若者の意見を無視した社会システムはない。

平成20年7月1日

物価高騰と社会システムについて

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