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ナイトライド・ストーリー

Chapter 33

日増しに金融危機が深刻になっているが、問題の根本は金融政策にあり、昨日今日降って湧いた問題ではない。ITバブルに次ぐバブルの到来だが、今回は損失額が莫大であることが従来のプチバブルと違う。世界を騒がせてきた投資ファンドは年率20%の高金利を謳っていたが、この事実ひとつをとっても異常だ。結局、日本のバブルと全く同じ過ちを犯していたわけだが、誰もがこういう事態が訪れることを認識していた。従って、何を今更というのが正直なところではある。

私は株をやらないので、今回の金融危機に関してもピンと来ないが、日本のバブル当時を思い出しても、地味な製造業でサラリーマンをやっていたのでバブルの恩恵は全くなかった。今回も大部分の人々には、対岸の火事程度にしか感じないだろう。むしろ、高騰し続ける物価や固定資産税が安くなってほっとしたというところではないか。米国議会で政府による資金投入が承認を得られないのは至極当然だし、そういうところは、米国は議会制民主主義が機能していると感じる。日本のように議員が誰の意見代表なのか分からない国とは違う。

グリーンスパン前FRB議長をマエストロと呼び、マーケットの異常な高騰に何の制限も設けず、バブルを放任した行政の責任とそのツケは大きい。米国政府は、民間への利益誘導をおもむろにやるが、利権獲得のための他国への政治介入程度は日常茶飯事である。国際紛争への軍事介入は「世界の警察」という名目による利権確保だし、政府開発援助にしても、エコノミック・ヒット・マンと呼ばれる政府の役人による開発途上国を陥れる罠であることはご承知の通りである。このような裏社会の事情は、平和ボケ日本人には想像もつかないことだが、日本の政治家の中にも、明らかに米国寄りの発言、行動をとる人が多くいる。インド洋の給油活動一つにしても、国際貢献ということだけで説明することは難しいと思うし、歴代首相が続けざまに辞任に追い込まれるのも不自然ではないか。船を海賊被害から守るだけの目的であれば、費用対効果を考えれば自衛隊が船に同乗して護衛した方がはるかに安い。

このような事情から世界中に米国に悪感情を抱く人々がいるのは仕方のないことだが、今回の金融危機は、世界の軍事力バランスを大きく損なう危険性があり、冗談のようだが世界戦争(テロ)突入という事態も、あながちあり得ない話ではないかもしれない。それは、従来のような領土拡大という目的で行われるものではなく、石油、穀物といった利権の争奪戦になる。

それでは、日本はこれからどうすればよいだろう。麻生内閣は、本来、福田内閣誕生の時期に誕生していれば政権を維持できたかもしれないが、今の状況では厳しいのではないか。昨日の所信表明演説では、景気対策に重点を置くと主張するが、一体、景気対策とは何を意味するのか?従来通りの地方への金のばら撒きが景気浮揚につながると考えているならそれは全くの誤りだ。結局、必要のない道路や建物ができて、その後の維持費で地方財政を圧迫するだけだ。

米国の大恐慌時、フランクリン=ルーズベルト大統領が行ったニューディール政策が成功した理由は何か?それは、ダム建設によって、灌漑農業、電力供給といった将来にわたって恩恵を受けられる政策を実施したことが、その後の地域経済に発展をもたらしたからだ。従って、赤字国債を発行して金をばら撒く政策は長期的には景気を悪化させる要因にしかならない。そこで、地方にハイテク若しくは環境産業に関する経済特区を設けて、民間の設備投資を煽る政策が効果的ではないかと考える。それも、税金免除措置をするだけで十分だと思う。

たとえば、LED産業の盛んな徳島をLED経済特区に指定し、LED産業の集積を図る。遊休の工業団地を無料で開放し、工場、設備にかかる固定資産税と消費される原材料にかかる消費税も5年間免除する。5年後には、工業団地の賃料と税収が期待できる。これを進出時だけでなく工場の拡張時にも適用する。

そうすれば、赤字国債を発行せずに、不況にあえぐ地方の建設、運輸業から原材料関係、飲食業に至るまで幅広く恩恵に与ることができる。このような政策は珍しいものではなく、台湾、韓国、中国といったアジアの国々では当たり前に行われている。呼び水として工場建設、設備投資にかかる費用の何割かを補助できれば一層効果的だろう。今、日本は人件費高騰と原材料費高騰によって製造業が成り立たなくなりつつある。私も、今後、工場を拡張する場合は日本での投資を全く考えていない。日本は、物価高に加えて、官僚システムの弊害によって事業がやり難くなっている。

たとえば、ワーキングプアの問題ひとつを取ってみても、日雇い労働を禁止すればワーキングプアが働く場所を失って只のプアになることが分からないだろうか。こういう世間知らずな規則が社会のあちこちにあるので国際競争上大変不利なのだ。建築基準や上場基準にしてもそうだが、規制が多すぎる社会は産業の活力を削ぐ。一部の政治家が、小泉改革によって規制を撤廃して新規参入を許したことを諸悪の根源のように言うのは間違っている。従来、既得権で潤ってきた人々には辛いかもしれないが、社会全体としては自由な価格競争によって物価を押し下げる効果があった。高速バスの料金、宅急便の値段等恩恵は図り知れない。このような部分を全く評価しないマスコミもどうかしている。以前にも指摘した通り、問題点だけでなく、評価すべき点との比較において公平な評価がなされなければ改革は進められない。なぜなら改革には痛みが付き物なのだから。

私は、中途半端な行・財政改革が逆に混乱を生んでいるのだと思う。日本の社会保障制度は完全なバブル状況だ。確かに、高齢者にとって医療、介護負担が増えるのは辛いが、子供や孫にそのツケを押しつけていいのか。負担が増えないように常日頃から健康に留意するように意識を変えさせるためにも、後期高齢者医療制度改革には賛成である。一部の知能レベルの低い人たちのご機嫌取り政策は近い将来行き詰る。早く抜本的な改革を行わないと日本から人や企業が逃げ出すことになる。

話を元に戻すが、米国の金融危機の根本は、製造業が衰退した産業構造にある。自動車、家電、半導体、電子部品等、あらゆる産業で競争力を失い、最後の頼みである金融がコケた。従って、この危機を救うためには、米国の製造業の立て直ししかない。日本は、幸いすぐれた技術を持つ製造業が健在であり、日本の健全な金融機関と製造業が一体となって米国の製造業を立て直さなければならない。それができれば住宅価格が下げ止まるだろう。

平成20年9月30日

米国発金融危機に思うこと

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