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ナイトライド・ストーリー

Chapter 34

このところの世界的な株価大暴落を見て、つくづく人間とは懲りない生物だと思う。大の大人がギャンブルに血道をあげ、いざとなったらこの狼狽振り。なんとも愚かではないか。ギャンブルは、カジノと競馬場でやってくれと言いたい。私はバブルを全く否定するつもりはないが、物価高騰時にも指摘した通り、それが通常の経済社会に悪影響を与える場合は規制すべきだと思う。ここで難しいのはそのさじ加減である。規制撤廃というと過剰に規制が撤廃され、逆に規制となると規制が行きすぎて自由な経済活動を阻害してしまう。そもそもの規制撤廃の立役者は、米国ロナルド=レーガン大統領と英国サッチャー首相だが、お陰でその後の経済は空前と言えるほど活性化した。バブルの効能は、貯蓄に廻った資金を実社会に還元することであり、死に金が生き返る。しかし、折角生き返ったお金を、生産性のない不動産や原油、ましてやトウモロコシ等の食料品に回しても物価が上昇するだけだ。

経済学者のヨーゼフ=シュンペーターの提唱する通り、イノベーションがなければ、経済は均衡状態(ゼロ・サム)にあり、社会の成長はない。P.F.ドラッカーは、「イノベーションと起業家精神」の中で、「イノベーションは、富を創造する能力を資源に与える。それどころか、イノベーションは資源を創造する」と説いている。ゼロ・サムゲームの覇者は、ただの貪欲(Greed)にすぎない。

私は、常々、現在の企業の評価基準、決算基準の矛盾を指摘してきた。時価総額経営は、ただ単に見せかけの売上と利益の積み上げであり、新たな価値は何も生み出さないと。従って、そのようなビジネスモデルで成長してきた企業は、逆のスパイラルになると坂を転げ落ちるように落ちる。金融危機による実態経済への影響という意味では、好調だった不動産、住宅関連、自動車、家電等は、すべてバブルの恩恵を受けて通常より底上げされていた。従って、下駄が外れた分、だるま落としに需要が急減するのは仕方ないだろう。私は、日経平均株価がどこまで下がるかということに関しては、2003年4月に付けた8000円割れの株価あたりが下限と予測する。それを下回れば株価が実際価値より下がってしまうので反転するだろう。

今回の金融バブルの根が深いのは、ITバブルであれば、ITに流れた資金はIT技術という新しいイノベーションを起こす技術や人材に蓄積されたが、今回の金融危機も日本の不動産バブル同様、新しい技術、人材を生まなかった。

我々の会社は、幸いにも研究開発一筋にこの8年間を捧げてきたので、今回の金融危機の影響を全く受けず、平成20年度上半期の決算は、売上目標を3割以上上回る好決算となった。その理由は、8年間で技術の蓄積ができ、製品の高出力化、更に製品を顧客ニーズに合わせてカスマイズする技術の発達によって、技術を貨幣価値に結び付けることができるようになったからだ。現状では我々の手掛けるUV-LEDの市場はニッチであり、世界的にも競合がないこと、また、世界最先端の技術で模倣が難しいことから価格競争はない。今後、経済の停滞に伴ってどういう影響がでてくるかは不明だが、我々のもとには、様々な分野から共同開発の要請がある。我々のような研究開発型ベンチャー企業に投資されたお金は、技術、ノウハウという無形の財産となって生き続ける。たとえ企業が倒産したとしても、そこで育った技術はどこかに継承され、残った人材の中で生かされる。

暗いニュースが多い中で、4人の日本人がノーベル物理学賞、化学賞を立て続けに受賞したことは、日本の将来に重要な示唆を与えた。質素で真面目な受賞者の姿は、金慢社会と一線を画したすがすがしさに溢れている。金融危機を救う富豪ウォーレン=バフェット氏も質素な生活で有名だが、地味であればある程、その功績との対比において美しく映る。ノーベル賞受賞者の家族がそろってクラゲを採取する姿などは、研究費が足りないと不平を漏らす若い研究者にはよい参考になるだろう。数年前に逮捕されたベンチャー経営者達が高級車から降りてきて「お金を儲けることは悪いことですか」と言って憚らない醜さとは対照的だ。私事で恐縮だが、私は企業の業績がよくなった最近でも、朝はバナナ1本に牛乳、お昼は自分で作ったおにぎり1個と納豆1パック、夜は日曜に作り溜めをしておいたカレーを分割して食べる。それは、節約兼健康管理のためで、ひもじいと感じたことはない。自分がやりたいことを実現するためには、それぐらいは当然だと思うし、それを辛いと思ったこともない。なぜ、そんなに貧乏かと言えば、年老いた両親から借金をしてベンチャーキャピタルから株を買い戻したり、決算が悪いからと役員報酬を返上したりした関係でお金がないからだ。家族がいれば、こういう生活はできないと思うから結婚も考えたことがない。

私は、ここ数年の金融の在り方をすべて否定しているのではない。我々のようなベンチャー企業が、アメリカのベンチャー企業並みに15億円もの資金をベンチャーキャピタルから調達できたことが我々の事業のベースになっていることは確かであり、それは日本の金融システムの規制緩和なくしてはあり得なかったことである。しかし、我々のように、その資金を研究開発だけに投資した会社は少ない。多くのベンチャー企業は、株主、株式市場の圧力に屈し、安易に儲けることができるビジネスモデルへの転換を強いられた。私自身も、何年も赤字を垂れ流し続ける罪悪感にさいなまれ、残った資金を株に投資しようかと考えたこともあった。しかし、私は、バブル時の経験から、絶対にそれだけはしてはならないと踏み留まった。あくまでも経営者の判断次第で、企業はどこへでも行ってしまう。善悪の判断基準は人によって千差万別だが、国が誤った誘導をすれば、信念のない経営者はそれに流される。

それでは、このような反省に基づいて、我々がやらなければならない改革は何か。それは、企業の評価基準を変えることである。マネーゲームのようなゼロ・サムゲームではなく、イノベーションを起こす技術、環境技術等で社会の役に立つ企業の創造が最優先課題である。そのためには、企業を時価総額で評価するのではなく、研究開発費等イノベーションを起こすための費用や環境対策のための費用科目を資産計上するか、イノベーション、環境関連科目としてプラス評価してはどうか。

済んでしまったことはどうしようもないので、今回の大失敗も愚かな人類が幸せになるための試練と前向きに捉えようではないか、これを契機にこれからどう変わるかが大事だ。

平成20年10月10日

世界的株価大暴落に思うこと

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