Chapter 45
このところ、各国政府協調による景気刺激策の影響もあって、自動車、家電製品、半導体の需要が回復している。LED業界に関して言えば、LEDTVや白色LED照明の急速な普及によって、どこの工場もフル稼働だが、コストダウン要求が厳しく、痛し痒しといった感じのようだ。
相変わらず景気が厳しい状況には変わりないが、弊社のお取引先は、幸い元気なところが多く、特に紙幣識別機の需要は、昨年前半、若干の落ち込みはあったが、このところ順調に回復している。また、光樹脂硬化関係、光触媒と組み合わせた空気清浄機といった新しい技術が開発段階を終えて実用段階に入ってきた。
弊社のお取引先の傾向としては、今のところ家電メーカーよりも電機メーカーが多い。それは、UV-LEDという新しい製品が、最初は産業用機器へ応用され、その後、家電製品へ普及して行くという、新技術の健全な成長過程にあることを示している。
私は、日本の電機メーカ―の底力を、自社製品を通して垣間見た気がする。その証拠に、最近発表された決算はどこも好調だ。日本の電機メーカーは、目先の利益にこだわらず、地道に何年もかけて新技術、新製品の開発を行う。産業用機器は、景気に左右されず、不景気にも安定した需要がある。弊社のように全く実績のないベンチャー企業の製品を、3~5年もかけて新製品に応用するチャレンジ精神には、敬服せざるを得ない。意外なことに、一般的に先進的と評価される企業よりも、お固いイメージの企業の方が、我々の製品を積極的に採用した。これらの企業には、脈々とチャレンジ精神が受け継がれている一方で、先進的イメージの企業が、大企業病に陥りつつあるのかもしれない。
弊社は、海外向け売上が、全体の4分の1を占める。しかし、その実態としては、最終ユーザーはほとんど海外なので、大部分の製品が、最終的に海外に輸出される。先端技術に国境はない。
最近、産業用ではなく、一般向け国内の需要も広がりつつある。興味深いアプリケーションなので、何かのご参考になればと思い、ご紹介する。
女性の美にかける執念は凄まじいものがあるが、特に、最近の若い女性の爪へのこだわりがエスカレートしている。ネイルアートと言う正にその言葉通り、爪というキャンバスにアートを表現することに大変な労力とコストをかける。ネイルサロンで、1本の指に1万円以上かける女性も珍しくないということで、色を塗るだけではなく、立体造形の装飾を施し、普段の生活に差し支えるのではないかと、余計な心配を抱かせる程だ。釣りをされる方はご存じと思うが、爪がルアーの釣り針と化している。更に、爪に飽き足らず、携帯電話に同様の装飾を施す女性もいて、この業界は更なる広がりを見せている。
ここで重要なのが、ジェルと呼ばれるUV硬化型の樹脂と、UV照射器だ。従来ジェルは、中心波長365nmの UVランプで固まるものが使用されて来たが、近年、400nm近辺のUV-LEDを使うものが出回るようになった。しかし、このタイプの問題点は、その専用樹脂しか固まらないということだった。そこで、あるメーカーが弊社の375nmのUV-LEDを使用し、従来のUVランプ用樹脂のほとんどが固められる照射器を開発した。
こう書いてくると、誰でも考えつきそうなことだが、実際には、そんなに簡単な話ではない。従来のUVランプ式の場合、5本指をまとめて硬化させるのが常識なので、そのためには沢山のUV-LEDを組み込まなければならない。そこで、このメーカーは、業界発の1本指用UV照射器を作った。発売当初、消費電力が少なく、寿命が長いというメリットはあるものの、値段の割に1本しか硬化できないとあって、ほとんど売れなかった。しかし、そのメーカーは諦めなかった。ネイルサロンへ業務用として売り込むのではなく、個人が家庭でネイルアートを楽しめるように販売戦略を絞った。そのために、ネイルアートの初心者向け解説ビデオを作り、ジェルもセットにして販売した。更に、人気ネイルブロガーにUV-LED照射器を進呈して、使ってもらった。すると、ジェル硬化時間が短いこともあり、必ずしも5本まとめて硬化させなくても、1本ずつ硬化していく方が都合が良いことも分かった。また、コンパクトなので、置き場所を取らず、持ち運びにも便利ということが口コミで広がり、今や人気商品となっている。
この例は、デフレの時代だからこそ、ネイルサロンに行く回数を減らして、家庭で安価にネイルアートを楽しむという時代変化にうまく乗った例だが、従来の常識を打ち破った1本指用UV-LED照射器と、その普及のための執念の勝利と言える。結果論だが、業界にとっては全くの新参者であるこの会社は、イノベーションを起した。業界に関して無知であったことが成功をもたらしたとも言える。
これはあくまでも一例に過ぎないが、これは成功の真理を表していると思う。大変な苦労をして、やっと製品化に漕ぎ着けても、いきなり大成功なんてことは、まずない。
是非、皆さんも、成功を信じ、常識に囚われず、じっくりと新しいことにチャレンジしてみて欲しい。
「成功の信念に基づいたチャレンジと忍耐!」これがデフレを克服するキーワード。
平成22年2月12日
デフレを克服する方法