Home Sitemap English
header
HOME

ナイトライド・ストーリー

Chapter 59

想定内はホリエモンの流行語だが、東北関東大震災は、全く想定外であり、我々に多くのことを教えた。天罰とは言い過ぎだが、腑抜けになりつつある日本に喝を入れた。被災しなかった幸運な者として、被災したつもりで復興、支援に協力しなければならない。日本には沢山のタイガーマスクがいるので経済的には心配ないが、尊い人命が多く失われたことは誠に残念だ。この教訓を将来に生かすことが、魂の救済につながると信じたい。

何事も理論通りには行かない。戦争映画では、前線の惨状を知らない将校が理論的に考えた軍事作戦を展開しようとして、部隊が壊滅的な打撃を受ける。また、刑事モノでは、エリート刑事が机上の論理で事件を解決しようとして、犯人に出し抜かれる。実際に、頭で考えたことはうまく行かない場合が多い。スポーツや製品開発のところでも触れたが、理論は後付けである場合が多く、そのような理論で解決できる程現実は甘くない。


地震に対する備えを考えた場合、建造物、防波堤といったハード面ばかりに目を向けて、ソフト面での対策が遅れているように感じる。結局、どんなに強固な構造物を作っても、想定を上回る地震が起きうる。一方、ソフトでの対策は、費用も小さく、大きな成果を上げられる。

たとえば、すべての家庭に人体センサーとバッテリーを内蔵した有線、無線両方で避難信号を受信できる端末を設置し、人が建物内に残っていれば避難サイレンが鳴るようにするだけでも有効だ。万が一、がれきの下に閉じ込められても、そのサイレンで建物に人が残っていることがわかる。また、津波に関しては、飛行機に備えつけてある程度の簡易的な救命胴衣さえあれば、逃げ遅れた多くの人々を救えた。ハードは想定内の災害には有効かもしれないが、想定を越えた場合の弱点を露呈した。1200億円の防波堤は倒壊して何の役にも立たなかった。


どのようなことでも、事故がないに越したことはないが、どんなに備えても、万全ということはない。そのような時、事実を包み隠すことなく、誠心誠意対応すれば、むしろ信頼を得て、事態が好転する場合が多い。正に災い転じて福となすだが、そのような観点から見ると、福島原発における対応は、まるでB級サスペンス映画だ。被害状況が明らかにされず、対処方法が曖昧で、不安を増幅している。このような場合、最悪のシナリオに基づいて、対処方法を考えるべきだが、被害を小さく見せようとする思惑が感じられ、太平洋戦争当時の大本営発表のように感じる人も多いのではないか。こんなことで放射能漏れを回避できるのだろうかと誰もが不安を抱いている。遅れて始まった放水作業を見て、子供でさえ、水鉄砲をやめて海からホースを引けと思った。穿った見方をすれば、ポーズと取れなくもない。そもそも、遠くから放水すれば水と一緒にがれきがプールに流れ込むことになり、逆に冷却できなくなるのではないか。映画では、このような時、主人公の偏屈な科学者が命令を無視して立ち入り禁止区域に入り、間一髪のところで放水をやめさせるのだが・・・。


米軍が、ソマリア紛争で、不時着したヘリの乗員を救出するにあたって多くの犠牲者を出し、トップダウンによる指揮命令の限界を感じて、ボトムアップによる逆ピラミッド型の命令系統に変更したのと同様、いざという時に上司、ましてや政治家のお伺いを立てているようでは、防げる事故も防げない。上層部は、問題が拡大することを恐れ、大したことないかのように装い、対応が後手後手になる。原発事故は、戦争と同様に一刻を争う事態であり、現場の判断が、トップに優先するぐらいの権限移譲が必要と思われる。

今回の震災では、最前線で命を掛けて戦う無名のヒーローが沢山いると聞く。映画の役どころとしては、ハリウッドならブルース・ウィリスといったところだが、それらヒーローの活躍に期待したい。

平成23年3月24日

東北関東大震災にあたって

<< PREV | INDEX | NEXT >>

TOP


All Rights Reserved, Copyright© NITRIDE SEMICONDUCTORS .Co.,Ltd.