ナイトライド・ニュース
携帯電話のバックライトなど急速に市場を広げた発光ダイオード(LED)。徳島大との産学連携で00年に設立された鳴門市のナイトライド・セミコンダクター社は02年、蛍光体を照らすことでさまざまな色の表現ができ、「究極のLED」とも言われる紫外線LEDを製品化した。社長の村本宜彦さん(43)にハイテクベンチャーの内情や今後の見通しなどを聞いた。
―紫外線LEDの反響は。
紙幣の識別センサー用の光源や空気を浄化する光触媒に使われ、用途は拡大している。医療やバイオ分野でも期待できる。今年に入って蛍光体を紫外線で発光させる空間演出照明用LED「ライムライト」を発売した。イルミネーション分野でもアピールしたい
だが、道のりは決して平らではない。紫外線LEDは、青色LEDよりも波長が短く、開発が困難とされた。その技術をいち早く世に出したが、企業の採用するスピードが予想外に遅かった。
―特に苦労した点は何か。
最初はLEDの発光部分を単体で売ろうとした。技術を評価する企業が、自社の製品に組み込んでくれるのではという期待があった。だが、組み込むには、製品全体を見直すリスクなどがあり、採用に慎重だった。最初に評価し、採用したのは、海外企業。結局LEDを生かした製品を自ら作らねばならなかった。
―起業のきっかけは。
徳島ニュービジネス協議会の事務局長だった99年に、徳島大から、窒化物半導体の研究開発中の技術を事業化する相談を受けた。研究開発を手がけていたのが、今は当社の取締役も兼ねる酒井士郎教授だった。
自分には未知の分野だったが、日本の製造業を一気に活気づかせる技術だと直感した。成功すれば、日本の大学の技術を見直すきっかけにもなる。同年末に東証マザーズ、翌年にナスダック・ジャパンといった新興株式市場が整備され、ベンチャー企業が市場から資金調達できる環境が整いつつあるとも考えた。
―5年間経営し、ハイテクベンチャーを支援する国内環境は整いましたか。
安い商品を大量に供給するという分野で韓国や中国に勝てない今の日本は、技術力を売るしかない。国が、ベンチャー企業に新しい技術開発を期待するなら、もっと支援すべきだ。米国ではハイテクベンチャーのために膨大な研究開発委託費があると聞く。
日本の補助金は、事前の計画書で予測した経過や結果を求めるものが多い。新技術の研究開発には、予測と結果の不一致はつきもので、補助金形式よりも、結果を重視した研究委託事業の方が好ましい。ベンチャーが開発した新しい技術を一般企業が採用しやすいような施策もほしい。
―資金調達面ではどうか。
当社では、ベンチャーキャピタルから14億円の投資を受け、1億円を政府系の金融機関から借り入れている。民間企業や民間金融機関がリストラの過程から脱していない状況では、元気な個人投資家から株式市場で資金を調達し、事業を発展させたいが、まだ上場できてはいない。
新興株式市場は、リスクのあるベンチャー起業が資金調達できる道を開くはずだった。だが、てっとり早くもうけるビジネスが上場しやすく、ハイテクベンチャーの上場は厳しいのが現状だ。
―会社設立以来、ホームページで、起業の内情や経緯をつづった「ナイトライド・ストーリー」が昨年末で15回を数えました。
大企業はリストラで、新技術を開発するところはごく一部。世界をリードする技術は日本では今やベンチャーしかない。新技術をお金に換えることは大変だが、起業を志す人に少しでも参考になればと書いている。
メモ 本社は鳴門市瀬戸町明神。00年4月に徳島大との産学連携でLED製造の事業化のために設立。01年に工場完成。02年に波長370ナノメートル(ナノは10億分の1)、03年には同363ナノメートルの紫外線LEDを商品化。村本社長は名古屋市生まれ。慶応大を卒業後、日本ガイシ広報室やイベントプロデューサーをへて、96年に知人との縁で徳島に。ベンチャー支援の社団法人「徳島ニュービジネス協議会」の事務局長から現職へ。設立時2200万円だった資本金は現在7億7600万円。 |