Chapter 21
Chapter11の時、Chapter11にならなくてよかったと書いて、もう21章まで来た。これまでの道程は、決して平坦なものではなかった。この7年近くで感じたことは、企業は法人という通り、生身の人間と同じように成長していくのだなということだ。そして、おもしろいことに、その人格は、経営者そのものと言ってもいい程、経営者に似る。子供が成長すればする程、親に似てくるのと同じように。私は、家族がいないので、本物の子供の成長と比較することはできないが、子供は、親の遺伝子、教育、躾、生活習慣、趣味、仕草等で、人格が形成されて行く。
企業も、同様に、経営者の理念、情熱、教育、躾等を従業員が実践して行くことで成長する。以前にも、記述した通り、私の理念に共感できない者は、自らバスを降りて行った。
私は、この7年間、自分のアイデンティティを見つけるために格闘してきたように思う。自分のアイデンティティとは、何か?私は、好きでもない人にも、おべんちゃらを使って取り入ることができる程、柔軟性を持ち合わせていない。正しくないと思えば、学校の先生だろうが、上司だろうが、構わず抵抗した。人は、そんな私に「もっと、うまくやれ」とアドバイスした。
しかし、そのアドバイスは、理解はできても、実践は難しかった。今いる従業員が、私の性格と同じという意味ではない。少なくとも、私のこのような性格を、容認し、従うだけの寛容さを備えているという意味である。企業は、一つのチームである。シュートを決めようと思えば、選手全員の能力、癖を監督が把握し、戦術を考え、敵の弱みに付け込まなければならない。小学校の体育の授業では、ボールがころがる方へすべての生徒が群がり、足が速くて腕力の強い生徒がシュートを決めるというのがお決まりのパターンだった。
数年前までは、うちの会社も、多かれ少なかれ、そのようだった。選手の能力も把握できていなければ、敵の弱みも把握できていない。ましてや、戦術と言えるものなんか、あろう筈がない。これは、私が怠けていたということではない。選手の能力を見極めるのに、ある程度の時間は必要だし、マーケットの状況を把握するにも、従来からある製品なら兎も角、今までにない製品の場合、時間がかかる。
私が、この7年の間にやったことは、まず、選手の能力を把握し、選別し、一方で敵(マーケット)の出方を見るということだった。そして、攻めずに、ひたすら耐えるという選択をした。紫外線LEDが売れない理由は、出力が足りないからではない。ユーザーが紫外線LEDという新しい製品を認知し、それに新しい価値を見出し、それを組み込んだ製品を企画し、製品化するためには時間が必要だと判断した。
それで、開発は、最低限必要なものだけに絞込み、経費も極力抑えた。一方、アプリケーションを拡大するためにライムライト・シリーズを発表して、紫外線LEDの新しい使い方をプロモーションした。取り敢えず、需要に火が点くまで、慌てず騒がず生き延びる作戦を取ったのだ。こう書くとた易いが、これを実践するには勇気が必要だった。何もしないことは、私のように気の短い性格の者には拷問に等しい。兵糧が尽きる前に、勇敢に討って出る方が楽だった。
そして、この捨て身の戦術が、見事に当たった。先週、東京のビッグサイトで、ライティングフェア2007が開催され、我々も、LED照明推進協議会(JLEDS)の一員として、5社で共同出展した。このイベントで、LEDが、近い将来、従来の照明にとって代わるということが印象付けられた一方、青色LEDを照明に使用することの限界が見えた。やはり、青色LEDに蛍光体を載せた青白い、或いは緑白い光は、照明に適さないという印象を多くの来場者が持った。そんなこともあって、蛍光灯と同じ方式によって、紫外線LEDでRGB蛍光体を励起することで白色を作るということに関心が集まった。
私が、以前から主張している通り、紫外線LEDこそが、センサー用光源、紫外線ランプに代わる産業用光源、照明用光源、そして、新しい原理のディスプレー用光源として、今後、応用範囲が広がって行くということが信憑性を帯びてきた。
その間、我々は、何をやって来たか。それは、ただ、この時を待ち続けて来たと言っても過言ではない。いや、そうせざるを得なかった。売上が増えない、資金は、どんどん減って行く。開発する予算はない。という状況だった。それで、経済産業省の補助金「地域新規産業創造技術開発費補助事業」を今年度、創業以来初めて使わせていただいた。
私は、この手の補助金嫌いで有名だが、民間企業の競争に、なぜ血税を使うのかということに疑問を感じていた。ところが、さすがに資金的に厳しくなり、開発がほとんどできない状況に、そうも言っていられなくなり、応募させてもらった。そして、小さな金額ではあるが、大きな成果を出すことができた。それは、今まで、やりたくてもできなかったところに、資金が提供されたため、開発が無駄なく効率的にできたからである。補助率が、費用の2/3であることも、無駄を極力なくそうという意識を強くさせた。1/3は、自腹になるので、予算限度目一杯使ってしまおうという悪魔のささやきに負けないで済んだ。十分な開発成果を出した上、予算を多く残すことができた。従業員のこういうくそ真面目なところも、私に似ている。
良し悪しは別にして、従業員は、経営者に似る。多分、そういう資質の者以外には、居心地が悪いのだろう。多くの者が、会社を見限って去って行った。先程、選別したと書いたのは正確には、選別されたと書くべきか。いずれにせよ、結果として、弊社にふさわしい従業員が残った。彼らに、大きな夢を実現するためには、リスクを取る勇気と、その困難を乗り越える力が必要ということを教えた。
最近、上場企業の粉飾決算が、毎日のようにマスコミで取り沙汰されるが、弊社は、真面目に6年間赤字を出し続けた。これは決して誉められたことではないが、本来、開発とはそういうものだ。我々のような研究開発型のベンチャー企業は、設備投資、人的投資、原材料費、ランニングコストと、他の業種に比べれば大きな費用が発生する。そんなことは、ビジネス経験のある者なら誰でもわかる。それを、創業2~3年目から利益が出る方が不自然だと思わないか。そもそも、そんなに簡単にできる技術なら、他社がすぐにキャッチアップして、うま味がなくなってしまう。
私が以前から主張していたのは、こういう技術開発型の企業こそが、最も開発資金を必要とする創業2~3年目の厳しい時期に、上場して開発資金を調達できることが重要だと。実際には、それができないが故に多くのベンチャー企業が、ここで倒産する。いわゆる『死の谷』というこの時期をどうやってしのぐかが、日本のベンチャー企業を育成していく上で、重要となる。
幸い、スタートアップ企業が、ベンチャーキャピタルから資金調達する環境は整った。しかし、その後、セカンダリーの資金が調達できないのが実情であり、結果を出すことが要求される。それで粉飾に走る経営者が出てくる。2~3年の研究開発で、結果を出すことなど、不可能なのだから、出ていないのが当たり前であって、その打開策を検討し、投資を継続する環境が必要だ。粉飾をするのは、経営者の資質の問題であり、監査制度や上場基準を厳しくしても防げない。むしろ、会社を見学すれば、大体の察しは付く。
昔は、金融機関が金を貸す場合の判断基準は、経営者の夫婦仲がよく、従業員の躾ができていて、社内がきれいに清掃、整理、整頓されていることだったと、ある金融機関の頭取が言っていた。今でも、その基準は、普遍だろう。上場基準を利益一辺倒にするのではなく、社会貢献、環境貢献等で判断するようにすれば、粉飾も減るだろう。
弊社は、4月13日で創業7周年を迎える。お陰様で、7期目にして、単年度黒字を達成できる見込みである。
私を信じて、これまで支えてくださった株主の皆様、お取引先の皆様、そして、何より従業員のみんなに心から感謝申し上げます。本当に、ありがとうございました。これからも、皆様のご期待に沿えるよう、一層精進して参る所存であります。今後とも、引き続き、宜しくご指導、ご鞭撻の程、お願い申し上げます。
平成19年3月13日
創業7周年を迎えるにあたって