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ナイトライド・ストーリー

Chapter 28

ビジネスとは、一体何か?「お客様は神様です」という言葉は実は奥が深い。なぜなら、神様は、我々にご褒美をくださることもあるけれども、試練をお与えになることもある。厳密に言えば、神様は崇拝の対象であり、我々に何かをしてくれることを期待することはナンセンスなのだが、一般的に、「神様」は、自らを救ってくれるありがたい存在を意味している。顧客満足度という言葉があるが、顧客が製品を買って、その製品を実際に使用した満足度を表す。従って購買時点で満足度100%だったが、使用してみて満足度0%ということもあり得る。

ビジネスライクに処理するという言葉の意味が、事務的に処理するという意味であることからわかるように、ビジネスという言葉は、どこか冷淡な意味合いを含んでいる。ビジネスとは、あくまでも金儲けが目的であり、売上を増やし、利益をたくさん出すことができればビジネスは成功と言える。よいビジネスとは、顧客満足度と利益が高いビジネスである。しかし、現実には、両立は大変難しい。

人類最古のビジネスは売春と言われているが、物乞いが、最古のビジネスだと思う。自らの惨めさを売り物に、他人からお金を貰うという双方向性が存在するからだ。この場合の顧客満足は優越感だ。ビジネス的には、大道芸に近いと言える。最も効率的という意味では、物乞いに勝るビジネスは存在しない。自分の体一つで初期投資ゼロだから利益率100%だ。しかし、これを人を雇ってやると、効率は途端に落ちる。時間あたりの売上が少ないからだ。小さな規模でやっていた時は黒字だったが、規模を拡大したら赤字に転落という話はよくある。日本半導体陣営がDRAMで失敗したのもそうだが、これらの失敗例に共通することは、ビジネス自体に独自性がないことである。


最近の薄型TVにおいても、既に液晶、プラズマといった技術に独自性が薄れつつある。プラズマTVが世に出たのが90年代前半であり、私は富士通の展示会の仕事をしていて、当時値段が200万円近かったが、こんな高いTVが売れるのかと思ったことを記憶している。発売当初は、イベント会場で業務用レンタルとして活用されていた。それが、今や家庭に普及していることを思えば、製品のライフサイクルは加速度的に早まっている。

先ほど、顧客満足度の話をしたが、冷静にブラウン管TVと薄型TVのメリットを比較すると、画質、値段はブラウン管に軍配が上がり、薄さ、消費電力ぐらいしか薄型TVのメリットを見いだせない。それにも関わらず薄型TVを消費者が買うのはなぜか?それが、マーケティングである。トレンドを作り上げることによって価値を創造する。残念ながら富士通自身はプラズマTVを実現する高度な技術力を持っていたにも関わらず、それをトレンド化するマーケティング力がなかった。そして、液晶のシャープは、双方の力を兼ね備えていた。電卓の画面がTVになると、30年前に誰が予想しただろう。同じく電卓の電源程度にしか使えなかった太陽電池が、家庭用電源になると誰が予想したか。

この2社の決定的な違いは何か?それは、経営力だ。富士通はもともと逓信省の指導で、日本電信電話公社の下請けとして成長した企業なので、所謂、親方日の丸企業である。一方、シャープは、ご存じシャープペンシルから始まった企業であり、純粋な民間企業である。御上から仕事を貰える企業と、自ら需要を創造する企業の違いがあった。昨年、シャープの社長の講演を聞いたが、「ナンバーワンより、オンリーワン」という言葉が印象的だった。事業の独自性が重要であることを、会社全体で共有している。


さて、25章において、ジャスダック・ネオにエールを送ったが、ちょっと事情が変わってきたようなので、敢えて、この章において問題提起したい。ネオは、大ヒット映画「MATRIX」シリーズに出てくるキアヌ=リーブス演じる、未来の仮想現実社会の救世主の名前である。よくあるSF娯楽映画だが、人生の真理が分かりやすく描かれていて感心する。未来都市ザイオンが敵の攻撃ロボットに攻め込まれて絶体絶命のところを、救世主ネオが救う。同じくSF映画「ロード・オブ・ザ・リング」も同様の設定だが、どちらの映画も、救世主は、下界とは違う世界で敵と戦っている。これと似たようなことを会社経営でも感じる。実際に敵と戦うのは、営業や製造現場だが、経営者は、それと全く違うところでもっと大きな敵と戦っている。それが経営判断と言われる事柄なのだが、経営判断を誤れば、現場がいかに優秀であろうと戦いに勝つことはできない。そのキーワードは独自性だ。

以前にも記述したように台湾、韓国の我々と同時期に起業したベンチャー企業は青色LEDを選択した。青色LEDは、特許の問題を除けば、製造装置メーカーの装置を購入すれば製造できる。一方で、我々は、独自に製造装置立ち上げ、他社がどこも手掛けない短波長のUVLEDの開発に取り組んだ。その道程は、決して平坦ではなかったし、何度ももう駄目かと思った。

窮地に我々が諦めなかった理由は、UVLEDの持つ無限のポテンシャルである。今は、出力が弱くて使えないが、出力が強くなれば、必ず膨大な需要があると。そして、生き残るためにあらゆる手段を尽くした。監査法人の監査を個人の公認会計士の監査に切り替え、また、大会社の監査役の常勤義務が緩和されたことによって、常勤監査役をなくし、高給の役員、中間管理職をリストラし、研究開発も国の補助金を活用し、工場の稼働も必要最小限に留めた。

一方、需要を創造するためにイルミネーション用途向けにライムライトを発表し、光樹脂硬化、空気清浄機用途への応用を図るために積極的にサンプル出荷を行った。この間、実に創業から7年である。一般的に、新しい技術が世に出るのに、10年と言われるが、正にその通りだった。我々の目論見としては、この10年をしのぐために株式上場をして、成長を加速するというシナリオだったが、そのシナリオは理解されなかった。

今月13日に創設されたジャスダック・ネオ市場は、成長が期待されるベンチャー企業に上場の門戸を開くことを目論んでいる。もし、5年前にネオが開設されていれば、我々の救世主となっていたかもしれない。当時、我々は、監査法人の監査を受け、主幹事証券会社から上場指導を受けていた。従って、ネオの上場基準には適合していた。しかし、その後、コスト削減のために、監査法人の監査を辞めてしまったので、現状ではネオ市場で上場することはできない。幸い、売上が増えたことによって、資金調達の必要性は低下したが、皮肉な話である。

そもそも、企業が上場を目指す理由は何か?資金調達、知名度向上、信頼度向上、優秀な社員の採用、相続税対策等様々だが、VCからの投資を受けているベンチャー企業の最も重要な目的は、VCの株式売却だ。なぜなら、VCは、そのために大きなリスクを負って投資をしたのだから、大きなリターンを得る当然の権利を有する。

日本では、ホリエモン事件以前にも、多くのベンチャー企業が粉飾決算を行い、その度に、株式市場が混乱した。粉飾決算は、何もベンチャー企業に限ったことではないし、決算の粉飾に留まらず、最近特に紙面を賑わせているように、食料品から工業製品に至るまで製品の品質の粉飾(虚偽表示)は後を絶たない。これらは、以前にも書いたが、企業(経営者)の資質の問題であり、規制を設けることで無くすことは不可能に近い。

このところの一連の粉飾決算に対する金融庁の監査法人に対する指導は、傍目には、自分達に火の粉が被るのを防ぐため、監査法人をスケープゴートに仕立てているようにしか見えない。監査法人自体は、不正があれば、市場原理の中で、顧客の信頼を失い、放っておいても経営が困難になる。監査で不正を見抜くことは現実には困難である。粉飾する側は、悪いことだという認識があればある程、巧妙にその不正を隠ぺいするので、注意深く見ても見抜けない可能性が高い。それを、見逃した場合の監査法人への制裁を重くすれば、監査法人が監査に消極的になり、監査コストが上昇するのは当然である。以前に指摘した通り、事件が多発するから警察官の数を増やすという論理では、問題を解決できない。粉飾決算した企業に対する制裁を厳しくすれば、粉飾は減る。

ジャスダック・ネオ市場の実態は、その形式基準とは裏腹に従来の新興市場と差別化できていない。日本のベンチャー企業は、日本社会全般のベンチャー企業に対する偏見、理解の浅さもあって、世界的に見ても遅れている。もっと多くの優秀な若い人材がチャレンジできる風土を築かなければ、将来的に日本経済が更に衰退することは目に見えている。それを、官僚の事なかれ主義的論理で、解決してしまってよいのだろうか。荒削りだろうと突出した才能を持った人材、企業を育む懐の深い社会を作るべきではないか。非行に走る危険があるから全員丸刈りと言った短絡的発想はやめて欲しい。不正があれば、放っておいても社会的制裁が加わることは、ライブドア、グッドウイル、雪印乳業、NOVAが証明したではないか。

今後、企業のコンプライアンスを厳しく規定するJSOX法の導入等、企業に必要以上の高コスト管理体制を要求する金融庁の政策は、中国を始めとするBRICS企業と厳しいコスト競争を演じる日本企業の国際競争力を弱め、一層、国力を弱めることになると確信する。この問題は、年金問題と違って、国民の切実感が低いが故に、指摘され難いが、国の将来を考えた場合にはもっと根が深い。ただでさえ、少子高齢化で国力が衰えているところへ、更に企業が国際競争力を失えば一体どういうことになるか。よく考えて欲しい。

平成19年11月14日

ジャスダック・ネオ市場オープンにあたって思うこと

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