Chapter 35
このところの景気後退に伴う企業のリストラと政府の対応を見ていて、このままでは失業者が溢れて大変なことになると恐ろしさを感じる。今の企業評価基準では、利益を上げることが最大の目的になっているため、従業員の雇用を確保することは全く評価対象にならない。従って、首相が経済団体の代表に雇用の確保をお願いしても、そんなこと言ったって企業の経営がおかしくなった時に国が面倒見てくれるのかという腹があるため、情け容赦なくリストラが断行されてしまう。
企業は、売上と利益、すなわち業績によって株価という通知表で株主から評価される。従って、景気後退局面では、通知表を良くするためには余分な人件費を削減せざるを得ず、経営者が真面目に仕事をすればするほど、失業者が増えることになる。今は、正にそのような状況にある。最初は、日雇い、次に期間従業員、そして正規従業員の順番でリストラが進行して行く。
これらの失業者を失業保険その他の国のセーフティーネットで保護しようとすると莫大な費用が発生する。結局これらの費用は将来税負担として我々国民にのしかかって来る。従って、早い段階で、この悪循環を断つ必要がある。
そのために国と経営者、そして株主は、何をすべきか?その答えは意外と簡単で、お金もあまり必要としない。ただ単に我々の考え方、できれば企業評価尺度を変えるだけで十分だ。利益至上主義の企業を高く評価するのをやめて、社会に役立つ企業、雇用維持に熱心な企業を評価するように改めればよい。株主は、平気でリストラする企業の株を売り、赤字覚悟で雇用を確保する企業の株を買うようにすればいい。そうすれば、真面目な経営者は雇用確保に真剣に取り組む。そもそも、平気で従業員の首を切るような企業に将来があるだろうか?以前にも触れたが、研究開発もしないで今売れる製品だけ作っていても、将来の芽となる研究開発をしていない企業は将来的には業績が尻すぼみになる。それと理屈は全く同じだ。従業員を大事にすれば、今は苦しくても将来には必ず芽が出る。
考え方を変えると言っても、なんらかのきっかけが必要となる。そのためには、まず、国が、売上と利益だけで評価する現在の米国流企業会計基準を改め、研究開発費、特許費といった将来の芽を育てる科目にプレミアを付けて評価する新しい日本独自の企業会計基準を作成し、早い段階で適用する。そして、経営者は、確固たる信念を持って、雇用確保を従業員に約束し、対外的には業績悪化を覚悟で雇用を守る旨宣言する。また、金融機関もそのような企業には積極的に融資する。そして、余剰人員が研究開発または新規ビジネスに取り組み、国または金融機関はそのような取り組みに資金を提供する。このようにすれば、将来的には企業は新規ビジネスで業績が回復し、雇用も確保できる上、税収として国にお金が入る。現在の短期的利益至上主義的な企業の評価尺度を改め、長期に亘って企業が発展するような基準にしなければ、社会全体として大きなダメージを負ってしまい、取り返しのつかないことになる。一刻の猶予も許されない。
さて、今年も年の瀬が押し迫り、あと数日を残すだけだが、世の中の流れとは対照的に、弊社は良い年の瀬を迎えられそうである。それは我々が次世代のLEDにこだわったお陰である。確かに、この8年間は、辛く、厳しいものだった。先の見えないトンネルを掘り続ける、ノイローゼになりそうな作業の連続だった。しかし、そのトンネルを貫き抜けた時、そこには忽然と楽園が姿を現すのである。世界的な大不況の真っただ中に、そのような楽園があるということは奇跡に近い。本当の楽園に辿り着くまでには、まだまだ解決すべき課題が山積しているが、それらの課題は今となっては大した問題ではないと思える。経済学者P.F.ドラッカーの提唱する通り、イノベーションがマーケットを創造するのであり、イノベーションのないところには悲惨な価格競争が待ち受けているに過ぎない。
今の世界的な不景気は、30倍ものレバレッジをかけてカサ上げしていた分の下駄がいきなり外れた格好であり、30倍の特需がなくなっただけの話であり、あまりに急激な変化に慌てている側面もあると思うが、冷静になって考えれば納得のいくものである。
経営者は、いつの時代にも、人を大事にし、イノベーションを起こす企業は伸びると信じて企業のかじ取りを行わなければならない。このような時代だからこそ、イノベーションの重要性がクローズアップしたと言えるかもしれない。イノベーションを起こすのは従業員であり、従業員を疎かにする企業にイノベーションはない。
来年は、更に飛躍の年になるよう、従業員一同頑張りますので、引き続き宜しくご指導ご鞭撻の程お願い申し上げます。
平成20年12月18日
世界同時不況と年末にあたって