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ナイトライド・ストーリー

Chapter 37

いよいよオバマ政権の誕生であり、まさに世界中の期待の星といえる。米国は、悪いことも極端だが、一方でよいことも極端な社会だなと実感する。政治資金団体への利益誘導をおもむろにやる戦争大好きブッシュ前大統領と、理性の塊のようなオバマ大統領は両極端に位置する。結果として世界経済にかつてない繁栄とかつてない失望を与えたブッシュ大統領を一方的に非難することは間違っている。この8年間、米国が本来ある筈のない繁栄を享受できたのは、まさにバブルマエストロ、グリーンスパン前FRB議長の天才的手腕のお陰であり、世界中がバブルに踊った。そのお陰で、本来マイホームを持てる筈のない人達がマイホームを手に入れ、それに伴って、家、自動車、家電以下すべての消費が拡大したことは紛れもない事実だ。バブルマエストロの言葉を借りれば、「100年に一度の経済危機」は、「100年に一度の経済的繁栄の帰結点」だ。折角なので、今、マスコミに大人気のこのフレーズ「100年に一度の経済危機」の真意を探ってみたい。一般的理解としては、1929年に起きた世界大恐慌以来の危機と解釈されているが、果たしてそうだろうか?起点をどこに設定するかの問題だが、1929年から80年しか経過していないので、「100年に2度目の危機」という言い方もできた。私は、100年に一度の危機の真意は、世界大恐慌をも上回る危機と理解したい。なぜなら、この80年間のインフレ率を勘案しても、金額と世界に与えた影響が大恐慌時を遙かに上回っているからだ。グリーンスパン氏がそこまで意識して発言したかどうかは別として、100キロ爆弾と核爆弾ぐらいの差があることは間違いない。私が、こんなことにこだわるのは、現状認識を誤ると日本のバブル処理のように解決策が後手後手に回って傷口を広げる可能性が高いからだ。従って、今回の不況は、世界大恐慌を遙かに上回る解決策を講じる必要がある。

ただ、このような対策に必要な資金の出所が何処かということが最大の問題点である。米国はこの世紀の繁栄の状況下においてさえ、戦費等で巨額の財政赤字を積み上げてしまった。頼みの米国債も、米国の繁栄が前提にあるので、従来通り中国や日本が買うとは考え難い。とすれば、期待のオバマ大統領が打てる手立ては限られる。就任演説が国民の義務を強調する内容だったことは、その布石を打つ目的だったことは明白だが、ボランティア活動等の出資を抑えた経済政策での経済復興は難しいため、オバマ政権が遠からず、人気を失うことは目に見えている。期待とその期待に沿えなかった時の批判は比例する。私のような者の例で恐縮だが、弊社設立時、投資家を始めまわりの期待を一身に受けてスタートしたが、日増しに意見が辛辣になって行ったことを思い出す。結果を出すには時間が必要だが、人々は起こりうる筈のない奇跡を期待している。オバマ大統領は、就任演説において、過剰に期待を抱かせるような発言を控え、これから起きる厳しい現実と、その対処方法を心得ているように見える。我々のようなベンチャー企業が、イノベーションを起こすのでさえ、10年掛かったのであれば、今回の大恐慌から世界経済を立ち直らせるためには20年ぐらいの時間をかけて、じっくりと取り組む覚悟が必要だろう。

それにしても、オバマ政権の誕生は、我々日本人にとっては羨ましい話である。正に今日本にも出てきてほしい政治家の理想像を形にしたような存在に見える。冒頭に述べたように、米国人は、日本人のような変化や争いを嫌う農耕民族と違い、起源は狩猟民族なので、変化に柔軟に対応できる気質がある。現在のような極端な景気後退がなければオバマ政権の誕生はなかったかもしれないが、失敗に学ぶ国民性とそれをダイレクトに政治に反映できるシステムは素晴しいものがある。日本のように、どちらの政党、どちらの代表もピントがボケていて、国民が政治に期待を抱けない国とは明らかに違う。

内閣制と大統領制の違いだけではなく、米国は議会制民主主義が的確に機能していると感じる。昨年、金融安定化法案が否決された時にも感じたが、確実に国民の意思が政治に反映されていると実感できる制度がそこにある。議会制民主主義とは、国民に選挙によって選ばれた代表者が国会において国民の意見を代弁する制度だが、たとえば、ブッシュ前大統領のように、選挙に協力してくれた後援企業に利益を誘導するような行為でさえ、一部の既得権者優遇という批判はあるが、立派に議会制民主主義が機能している証と言える。

それに比べて日本の政治家は、誰の意見代表なのかさっぱりわからない。一部の団体、企業への利益誘導を悪のように言う風潮があるが、果たしてそうだろうか。たった一人、たった数百人であろうが、それらの人々にも役に立たない政治家が、何万人、何千万人の国民の役に立つだろうか。日本では、平等イコール誰の役にも立たない悪平等なのだ。

日本の民主主義は明治維新から高々135年であり、米国は独立宣言によって大英帝国の植民地支配から独立した後、南北戦争の苦難を乗り越えて233年の歴史があり、この1世紀の差は大きいのかもしれない。

これからの1世紀で、日本にもオバマ大統領のような首相が生まれる政治制度の確立と人物の登場を期待したい。

平成21年1月23日

米国オバマ大統領就任にあたって

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