Chapter 39
日本人がアカデミー賞をダブル受賞するという明るい話題は、昨年のノーベル賞に引き続き、日本の将来に示唆を与えた。滝田洋二郎監督が、日活ロマンポルノ等の成人映画から頭角を現したという生き様にも共感を覚える。芸術という誤魔化しの効かない世界において、たくましく生きてきた勲章のようなものだ。日本人が、チャイコフスキーコンクールで優勝し、フィギュアスケートのように芸術性を要求されるスポーツでも上位を占め、日本アニメが世界のアニメになって久しいが、日本人の繊細な感性がハリウッドでも認められた。
一方で、ハリウッドが、経済危機の影響を大きく受けていることを感じる。従来のような傲慢さが身を潜め、謙虚に他国文化を受け入れようという姿勢、そして人間の内面への視点の変化が見てとれる。それは大いに歓迎される一方で、それ程米国経済が傷み、米国人が自信を喪失している証拠でもある。
オバマ政権は、早々と景気対策法案を可決したが、予想通り試練の時を迎えている。今、大統領は、豪華客船タイタニック号の船長と同じような心境だろう。すべての乗員を救うことができない状況で、誰を救い、誰を犠牲にするかというシビアな決断を迫られている。幸いなことに、オバマ船長がそのように判断するなら、それは仕方のないことだという説得力があるが、日本人が乗り込んでいる船は不幸だ。麻生船長を始めとする乗組員が誰を先に救出して、誰を後回しにすべきかという判断さえできないので、乗客が生き延びるために勝手な行動をとり、パニックになりかねない状況だ。このままだと、犠牲にならなくていい人まで犠牲になる。
私は、サラリーマン時代、部下がしっかりしていればトップは誰でも勤まると思っていたが、自ら経営するようになって、トップの重要性を認識するようになった。トップの最も重要な資質は、「振れないこと」と「説得力」だろう。大体において、右に行くか左に行くか迷った時点で、目的が同じであれば、どちらの選択肢も遠回りする程度の違いしかない。だが、トップの気持ちが振れると部下は不安になる。また、部下が全員トップと同じ意見であることはない。従ってトップは、反対意見の部下が納得はしなくても、理解を得られる状況に持ち込まなければならない。トップが、夜な夜な飲み歩いていたり、私生活の態度が悪ければ、たとえ正しい指示でも説得力を失う。北京オリンピックの時、星野監督の送りバントのサインに、多くの選手がバントを失敗し、また、バントは成功しても点が取れなかった。試合後、監督が選手から信頼を受けていなかったことが判った。信頼関係が崩れていれば、結果に繋がらない一方、調子のいいチームが、奇策に出て成功するのはこの理由だ。このような北京での失敗から学び、来月から始まる侍WBCは、監督も選手も一体感のあるよい状態に見える。ただ、監督、選手の実力を公平に見て、北京のような惨敗はないと思うが、優勝は難しいような気がする。
残念ながら、日本の政治家は、世界のトップと伍して戦える科学者、芸術家、スポーツ選手と比べて、相当低レベルであることは疑いがない。小泉元首相が正しいレールを敷いたにも関わらず、安倍、福田、麻生と3代続けて国民の期待を裏切った責任をどうやって償うのか。「猿でも反省する」というCMが流行ったことがあるが、これら首相は、猿以下ということか。株価のみならず円まで下落するに至って、損害賠償請求訴訟でも起こさなければ、自らの責任を認識してもらえないのだろうか。ただのバラマキでも信頼関係があればうまく行くこともあるが、もうやるだけ無駄だろう。猿芝居はやめて、早期に解散して、国民の判断を仰ぐべきではないか。
オバマ大統領は、危機克服と、長期投資、財政再建を政策の3本柱に掲げた。これは、誠に納得し易い内容であり、誰もが常識的にそう考える内容だ。日本の政治家が官僚の作った作文をそのまま読むレベルを超えて、自ら国民の視点で、政策を立案できるようになるには何が必要だろう。大統領と同じように政府の下に独自の政策立案機関を設置する必要がある。それは役人の寄せ集めではなく、民間の有識者で構成しなければならない。 少なくとも、オバマ大統領が掲げる政策は、日本にもそのまま通用する。オリジナリティーまで期待しない、最低限、猿真似で構わないので、猿程度の仕事はして欲しい。
もう既に日本にとって最悪の流れは始まっている。グローバル企業は、円高の影響もあり、国内の製造拠点を縮小し、海外生産の流れを加速している。誤った政策、労働行政のつけは結局、将来、国民が負うことになる。資源のない日本は、海外に物を売って稼ぐしかない。日雇い、派遣を含めて労働者を本気で守りたいならば、甘えた労働者の意見ではなく、厳しい国際競争に晒されている企業の意見に耳を傾けるべきだ。今のまま労働者を甘やかす政策を継続すると、国内に雇用がなくなる。
幸い、日本には世界に誇る太陽電池、ハイブリッド自動車、LEDその他素晴らしい環境技術があるではないか。ドルが基軸通貨としての信用を失った今、日本政府がしっかりとした将来ビジョンを描けば、これらの環境技術を武器に、日本円が新しい基軸通貨たり得る。まだ遅くはない、一刻も早く有識者をまとめて、環境技術を核とする新産業創出法案をまとめて将来ビジョンを描いて欲しい。そうすれば、景気は浮揚し、雇用が創出できる。
平成21年2月26日
日本人のアカデミー賞受賞と野球と政治