Chapter 40
早いもので4月13日の今日、9回目の創立記念日を迎えた。ストーリーも今回で40章になり、あらためて読者の皆様には感謝申し上げる。
目下のところ、GMがChapter11になるかどうかが最大の関心事だが、米国では過去、航空会社や多くの企業がChapter11で再生した。確かに規模の問題から社会的影響の大きさは計り知れないが、Chapter11による再生プログラムが最も迅速且つローコストな解決手段だと思える。規模が大き過ぎて潰せないという発想は大変危険であり、規模が大きいからこそ最小限の損失で切り抜けなければならない。過去のしがらみを断ち、新しい経営陣が新しい理念の下で再出発を図らなければ、また同じ過ちを繰り返すだろう。私は米国引いては世界が経済危機から早期に再生できるかどうかはGMにChapter11を適用できるかどうかにかかっているとさえ思う。
さて、前章から2カ月足らずの間に、WBC侍ジャパンが優勝し、政権交代を目論む民主党小沢政権がスキャンダルで失速といった大きな変化があった。また、世界的にも景気回復の足音が近づきつつあるように見える。米国の自動車産業の成り行き次第では、もう一度底を探るような展開になるかもしれないが、大きな流れとしては回復基調にある。
弊社は、昨年度は、好決算で終えることができた。それは、この9年間の努力の積み重ねによるもので、何事も諦めてはいけないと実感する。WBCで侍ジャパンが優勝したのも諦めない強い意志によるものだと思うし、駄目だ駄目だと罵声を浴び続けた自民党が未だに政権に留まっていられるのも、諦めない強い意志による。結局、諦めないことが成功の基本ということかもしれない。
私は、金融危機の原因が、ほんの小さな過ちの積み重ねに過ぎないことに驚かされる。村上ファンドの村上氏が発した「金儲けは悪いことですか」という一言がすべての過ちを集約している。金融と証券の垣根が取り払われ、株主(投資家)の利益という一見、美しい言葉の下で、高度な統計学を駆使した(実際には統計学と言える程立派なものではなく、そうあって欲しいという願望を数値化した虚計学)イカサマギャンブルが公然と行われた。金融危機とGMの問題は全く別だが、どちらも小さな過ちの積み重ねであることが共通する。ビジネスに限らず、スポーツ、政治、あらゆるものが、ほんの小さな意識の持ち方で、結末が大きく変わる。
多くの成功した経営者が清掃の重要性を説くのはなぜか。確かに会社がきれいになっただけでは、売上は増えないかもしれない。しかし、掃除もろくにできない会社が厳しい競争を勝ち抜けないことを分かり易く表現している。つまり、従業員一人一人の常日頃の小さな心がけが重要ということだ。他人の迷惑も顧みずに金儲けをしても、いつか手痛いしっぺ返しを食らう。
私は好調な今こそ、二度と同じ過ちを繰り返さないよう、この9年間の過ちを記録しておきたい。
- 一つ「正しいと思うことは積極的に主張せよ」
- 成功したければ敵を作るなという人がいる。「もっと大人になれ」とか「もっとうまく立ち回れ」とアドバイスを受けることもあるが、周りに当たり障りなく接するよりも、むしろ、積極的に自分の考えや意見を主張すべきだ。戦をするのに、敵でも味方でもない中立の者は必要ない。イソップ物語の「裸の王様」同様、大人になるということは、真実を真実として語らないことだが、曖昧な態度は敵を作らないという最低限の防御に過ぎない。ビジネスをやって行くためには、従業員、株主、顧客、地域、他多くの人々の理解を得、味方としなければならない。従って、自分の正しいと思ったことは明確に伝え、自らのポジショニングを明確にした方がよい。
- 一つ「他人がやらないことをやる」
- ビジネスにおいて、これ程有名無実な成功哲学も珍しい。その理由はなぜか。それは、リスクを予想できないからだろう。液晶TVにしても、最初は、誰もが、電卓の画面がTVになることに違和感に感じた。ところが、今や、TVと言えば液晶という時代になった。我々は、業界関係者の誰もが、やるだけ無駄と主張したUV領域のLEDにこだわった。しかし、9年の歳月を経て、その分野に確実に需要が存在することを証明した。
- 一つ「最後まで諦めない」
- 今から過去の決算書類を振り返ると、かなり際どい状況になっていたことが何度もあったが、当時はそれ程の危機感を抱いた記憶がない。それは、極限状態でも、切り抜ける方法を準備し、慌てることなく対処していたからだが、最後の最後まで諦めない冷静な姿勢が奇跡を産む。
- 一つ「敵は味方にあり」
- 私はエンジニアではないので、技術者からは尊敬どころか支持もされていなかったと書いたが、指揮命令系統がいびつな組織を統治することは難しい。何年もかけて先の見えないトンネルを掘り続ける作業の連続に、役員、従業員から、このまま掘進んで大丈夫なのかという疑念が湧く。また、この機に乗じて自分がトップになりたいという野心を抱く者も出てくる。そのような時に、経営者は、毅然と進むべき進路を指し示さなければならない。過去、「社長が辞めなければ、全社員が辞める」と辞任を迫られたことが何度もあったし、従業員から、「この会社は社長が馬鹿だから見込みない」と言われた。キリストに始まり、シーザー、源義朝、織田信長他、部下に裏切られた英雄は数知れないが、裏切りは人間の宿命だ。大将が戦う敵は、敵ではなく味方だ。
- 一つ「人事は公平、厳格に」
- 人事が最も重要だが、評価基準を明確にし、公平、厳格に判断し、いかなる例外も認めてはならない。また、降格人事を行わないと組織は硬直化する。年齢に関係なく、努力し実績を上げた者を評価する。過去に功績のあった者でも、現状成果が出ていなければ降格は止むを得ない。
- 一つ「情報は、自ら取りに行く」
- 情報は、下から上がってくるものではなく、上から拾いに行くもの。私は、毎日何回も従業員のところへ行って、パソコン画面をのぞき込み、現状を把握し、問題点を指摘する。従業員にとってはやり難いかもしれないが、私だってこんなことをしたくない。それが嫌なら先に情報を上げればいい。私自身もやりたくないことをするのが仕事と心を鬼にしている。
- 一つ「スムーズに行っている時は、用心せよ」
- 何も問題なく、スムーズに物事が進行した時は、後から重大な問題が発生することが多い。それは、進め方が甘いからスムーズに運んでいるだけで、大きな落とし穴が待ち受けている。逆に重大な事件の後は、順調に事が運ぶ。たとえば、「全従業員が辞めるか、私が辞めるか」という事件の後、私は留まる決意をしたが、全従業員が辞めることはなく、反乱分子が退社し、その後、社内の意志統一が容易になった。
- 一つ「繰り返す」
- 何度も分かり切ったことを繰り返すのは嫌なものだが、繰り返すことが重要。親が子供の顔を見るたびに勉強しろと言うのも同じだが、言わなければやらないと考えて間違いない。それも、事細かくやり方を指図した方がよい。バントをするなら一塁線上に転がすのか三塁線上に転がすのか、細かく指示する。
細かいことを書いたら切りがないが、私は9年間で本当に多くの失敗を積み重ねた。しかし、失敗は成功の本と言う通り、失敗が成功の鍵を握っている。
GMも10年後が楽しみだ。
平成21年4月13日
創立9周年にちなんで