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ナイトライド・ストーリー

Chapter 47

お陰様で、弊社は、4月13日に創立10周年を迎え、毎年恒例のお遍路さんに従業員と行ってきた。これも、ひとえに皆様のご支援・ご尽力の賜物と心より御礼申し上げたい。

これを機会に、この10年間を振り返り、これからの10年で何を為すべきかを考えてみたい。


会社を設立した2000年当時、マザーズ、ナスダック・ジャパンといった新興株式市場の創設による狂乱的ITベンチャーブームが、上場企業の不祥事によって冷めつつあった。また、LED業界においては、発明者とその所属企業の係争、また、企業同士の特許係争がマスコミを賑わしていた。そのような環境において、弊社は、徳島大学との産学連携という形で産声をあげた。設立間もなく、ベンチャー・キャピタルから約15億円を調達し、翌年、鳴門にクリーンルームを備えた本社工場を構え、紫外線LEDの開発を始め、2002年に世界で始めて365~375nmのUV-LEDを製品化した。

当時、青色LEDがノーベル賞を受賞するかもしれないということで、世間の関心は青色LEDに集中していた。青色LEDとYAG(黄色)蛍光体を組み合わせた白色LEDが、ちょうどタイミングよく、携帯電話のiモードサービスが始まったことより、携帯液晶のバックライト光源として採用され、急激な携帯電話の需要増加に伴って、青色LEDの需要も爆発的に増えた。

UV-LEDの出力は、当初1mWと弱く、多くのサンプル供給先から、実用化するには、「出力が最低10倍は必要」と言われた。ただ、紙幣識別等のセンサー用途に関しては、「これで十分」という評価で、日本国内のみならず、海外からも注文をもらった。しかしながら、その数量は、会社全体の収支を賄える状況には程遠く、中国からの大量発注に併せて量産を仕掛けたところ、キャンセルが発生し、大量の在庫を抱えるといったトラブルもあり、経営的には厳しい状況が何年も続き、最大で累積損失が11億円に達した。普通の会社なら、経営的にもたないが、資本金が大きいこと、金融機関からの借入が殆どなかったこと、そして、何よりマネーゲームに手を出さなかったことが幸いした。製品が売れない分を賄うために、研究開発を受託したり、大学等の研究機関からGaN基板の注文を受けて、小銭を稼ぐなどで急場を凌いだが、高価な結晶成長装置の償却費を賄うには全く足りず、重要な特許を売却するなど、存続をかけてありとあらゆる努力をした。東京の展示会に出展する時は、社用車に4名乗車し、営業を兼ねて大阪、名古屋、長野、東京と取引先を訪問し、東京での宿泊は4名1部屋で雑魚寝といったように、徹底的に経費を切り詰めた。私の年俸がワーキングプア水準だったことは以前にも書いた。

資金不足が、UV-LEDの開発にも影響したが、逆に有利に働いた面もあった。というのは、資金が潤沢にあった時は、複数台の装置を24時間3交代勤務で稼働し、湯水のごとく原材料を消費していたが、努力の割に成果に結び付かなかった。一方、予算がないので、装置の稼働を極力減らし、最低限の開発に絞り込んだところ、驚く程出力が向上した。その理由は、きめ細かく条件設定を振ると、効果が見極めにくいが、大胆に条件を振ることによって、効果が見極め易くなったことによる。過去の膨大な無駄があってこそ、なせる技とも言えるが、研究開発は、ある程度不備な環境の方が結果に結び付き易い。

また、製品の認知度を高めるために、様々な色の蛍光アクリルと組み合わせた製品を開発した。ネーミングも「ライムライト」と耳あたりのよい名前にし、空間演出用に使ってもらうことを目論んだ。実際には、あまり売れなかったが、これらの製品を積極的に展示会に出展することによって、UV-LEDの出力が強くなったことをアピールすることができた。

このような変遷を経て、今では、波長375nmのUV-LEDで、25mW(20mA)外部量子効率約40%と、発表当時の20倍以上の出力になった。アプリケーションは、身近なところでは、女性のマニキュア用ジェルの硬化や、光触媒と組み合わせた空気清浄機といったように、従来、紫外線ランプを使用していた用途へ拡大している。一方で、センサー用途には、現在でも出力1mW程度の、今となっては非常に弱いUV-LEDが使用される。これらの用途は、出力は弱くても、個々の性能誤差が小さいことを要求されるため、安定的に供給することが難しい。数量が少ないので、生産効率が低く、しかも、出力が低いため、取引先からの価格要求が厳しい。皮肉なことに、大幅に出力が向上したことで、出力の弱いUV-LEDを安定的に供給することが難しくなった。


今後、紫外線ランプをUV-LEDに切り替える流れは加速することが予想される。

今、青色LEDは、白色照明、大型液晶TVのバックライト用途と、第3次需要拡大期を迎えている。既に、日本、韓国の半導体メーカーなどが、本格的な参入を表明しているが、その大きな理由として、特許の期限到来がある。そのほとんどは1990年以前に成立し、20年が経過し、その役割を終えたため、誰でも参入できるLED大競争時代に突入した。半導体メーカーには、口径の小さい時代遅れとなったシリコンウエハ用の製造ラインが眠っており、特に後工程に関しては、新たに設備投資することなく、これらのラインをそのままLEDに転用することができる。

こうなると、資金力の勝負となる。今後、更に激しい投資競争が繰り広げられ、価格も急激に下がって行くだろう。

このように、誰でも参入できる状況になってから、参入しても厳しい消耗戦に巻き込まれるだけだ。一方、UV領域は、青色に比べると遥かに事業の余地が残されている。

皆さんも、これからの10年で、その後の10年自らのペースで事業化できる、全く新しい技術、分野に取り組まれてはいかがだろう。

「虎穴に入らずんば、虎児を得ず」

今回は、弊社の創立10周年にあたり、僭越ながら、これからの10年のあり方の、何らかのご参考になればと、筆を執らせていただいた。

皆さんの事業が、これからも大きく飛躍することを、心からお祈り申し上げる。

10周年記念にいただいた「ナイトライドだるま」

10周年記念にいただいた「ナイトライドだるま」

平成22年4月26日

創立10周年を記念して

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