ナイトライド・ニュース
-まず、起業前後の心構えといった辺りから聞かせてほしい。
「自分のことを振り返っても、あと少しタイミングが遅れたらと、いまでも考えることがある。市場は猛烈な勢いで動いており、時機を逸したら勝算はない。技術開発型か、そうでないのか、業態にもよるし、当たり前ではあるが、挑戦しようとしているマーケットの同行に十分な注意を払う必要があると思う」
-仮に起業した後、軌道修正が必要と気づいたとして、それは可能か。
「私もそれに対する十分な答えは持ち合わせていないが、常に軸足を置くマーケットの周辺を含めアンテナを張り巡らせておくべきだろう。当社も次世代の半導体材料として注目されている窒化ガリウム基板に着目して創業したが、市場の移り変わりをみながら、それを活用した紫外線発光ダイオード(LED)にいまは照準を合わせ全力投球している」
「その方が成長余力があると思ったからだ。技術の蓄積もない分野に突然転身を図っても無理だが、既存のノウハウを生かせる分野への挑戦なら、勝機はあると思う」
-ベンチャーキャピタル(VC)の投資なども受けて、これまでに4度の増資を実施しているが、資金調達問題で心がけるポイントは。
「これも当たり前のことかもしれないが、余裕を持って手配しておくことが肝心だ。資金がなくなったから調達するといったスタイルではどうしても無理が出てしまう。それに計画的に資金調達を進めるために、どういう目標を設定すればVCなどの投資意欲を刺激できるのか、組織全体で考えられる土壌作りにも役立つ。そんな副次的な効果を期待できる」
-ベンチャー企業を経営するうえでどんな落とし穴がある。
「権限委譲問題だと思う。創業当初はすべてトップが決めていくのが普通だと思うが、一定の期間を経るとトップの言動が周囲には“独裁”に映る時期が来るのかもしれない。当社にも、そんな時期があった。中間管理職の成長に合わせて、権限委譲を進めることを意識しておくべきだろう」
-給与体系をどう設計するのかも組織運営上大切だ。
「その通り。ベンチャー企業は年俸制をベースに考えた方が良いのではないかと思う。中途採用、新卒など様々な採用形態の人材で構成される組織であり、実力・実績に見合って報酬が違ってくる仕組みの方が理解を得やすい。当社も給与制は残しているが、年俸制を基本に考えている」
「同時にチームワークを崩さないため、最低限の職場のルールは決めておく方が良い。意外に思うかもしれないが、若い層でもそれを否定する人は余りいない気がする」
-株式公開も視野に入れるなど成長プロセスをたどっているが、「起業」という視点から見たとき四国の条件はどうか。起業予備軍に提言を。
「少なくとも本社を置く徳島については、徳島大学を中心に産学連携を進めやすい土壌がはぐくまれており、技術志向型ベンチャーには有利な土地柄だと思う。県人気質もまじめなので、良い企業風土を作り出せるのでは。東京などとの距離的な問題もインターネット普及を考え合わせれば、マイナス材料ではない」
むらもと・よしひこ 85年慶大法卒、日本ガイシなどを経て、96年に社団法人徳島ニュービジネス協議会事務局長に就任。在職当時、徳島大学から酒井士郎同大教授の開発した窒化ガリウムウエハー量産技術の事業化の打診が地元経済界に持ち込まれ、それを機に転身。半導体ベンチャー「ナイトライド・セミコンダクター」を2000年4月に設立、社長に就任した。名古屋出身。40歳。 |