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この度、独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター(センター長 西村秀一)と共同で、波長222nm、254nm、275nmの3種類の異なる深紫外線領域の波長を用いて、OC43コロナウイルス(疑似新型コロナウイルルス)に対する不活化効果の検証を行いました。結果、同じ環境下に於いて、各深紫外線波長を、同じ光エネルギー量(単位Jジュール)照射する比較試験で、波長275nmの深紫外線波長は殺菌用光源254nmと同等あるいはそれ以上の不活化効果があることを確認しました。
1.背景
南アフリカで発生したオミクロン株の感染急拡大は、ワクチンの効果がウイルスの変異に対して限定的であることを露呈しました。人類は、1901年、ドイツの物理学者ハーマン・ストレーベルがUVランプの発する深紫外線領域の光で、細菌やウイルスを不活化できることを発見して以来、殺菌灯として水銀を含むUVランプを使用してきました。UVランプによる不活化は、薬剤を使用しないので、残存物質のない安全、確実な不活化手段として、医療分野では、豊富な実績があります。近年、半導体技術の発達により、波長300nm以下で、十分な照度を持つ深紫外線発光ダイオード(以下UVC-LED)や、エキシマランプの放つ波長222nmの光でも同様の効果が確認され、応用が始まっています。本研究は、深紫外線領域に於いて、新たに応用が始まった波長222nm、275nmの2種類の紫外光を、従来からの殺菌用光源254nmと比較検証する目的で実施しました。
2.実験内容
各発光波長の光源として、波長222nm:エキシマランプ、波長254nm:UV(低圧水銀)ランプ、波長275nm:深紫外線LEDを用意しました。それぞれの光源の照度が異なるので、条件を同じにするため、各光源の照度に応じて、対象物に照射する時間の長さを調整し、照射光エネルギー量(積算光量)が同一になるようにしました。また、同様の検証試験に於いて特殊な環境下に於ける限定的な試験結果が多く見受けられることから、実際に医療現場等で応用される場合を想定して、光源から対象物の距離は500mmと長めにして、実践的な不活化効果を得られるよう配慮しました。
3.結果と意義
図は、各々表面付着したOC43コロナウイルスの残存感染価の経時変化を示します。Referenceの青色バー2本は、試験条件基準値に対応し、22℃30-35%RHの安全キャビネット内で作成直後のスメアサンプルと12分間放置した同サンプルです。各波長の橙色、黄色、青色、緑色、灰色の5色のバーは、20℃8-14%RHに維持されたバイオクリーンルーム内において、プロトコル通り、スメアサンプルを完全に乾燥させた後に、各波長の光源から500mm離れた距離にて、左から順に橙色0.0J/m2. 黄色7.5 J/m2, 青色15 J/m2, 緑色30 J/m2, 灰色60J/m2の光量を照射した結果です。感染価残存率の経時変化について、0.0 J/m2の橙色棒グラフと比較してバーの長さが短い程、不活化効果が高いことを表しています。顕著なのは、照射された光量が最大の60J/m2の灰色棒グラフが、275nmが最も短く、次いで波長254nm、最後に222nmという結果になりました。
従来、殺菌線波長として応用されてきた波長254nmに対して、波長275nmは疑似新型コロナウイルスについて不活化効果が同等あるいはそれ以上という結果が得られました。これは、水銀全廃を定めた国連環境計画(UNEP)「水銀に関する水俣条約」で定めた、水銀全廃の流れに沿うものであり、低圧水銀ランプに代わる殺菌用光源として、深紫外線LEDが代替光源としての役割を十分に担えることを表しています。今後、深紫外線LED光源が医療分野に於いて幅広く応用され、環境汚染物質水銀による健康被害が減少することを望みます。