Chapter 113
まさかではなく、やっぱりと言った方がいい。そうならないことを願ったが、ブレグジットでも同様だった。怒りのマグマは臨界点に達した。安易に考えている人がいるが、深刻に捉えるべきだ。決して楽観できない方向へ賽は投げられた。
作家森鴎外がドイツに留学した時、同級生が、「次は猿が留学する」と嘲ったという。現在、日本人を蔑む外国人は少ないが、明治時代、欧米人は日本人は猿に近いと見做していた(明らかな人種差別が存在した)。太平洋戦争は、日本の鬱屈した状況が根本にあった。先進国と認められたい(認めさせたい)の一心で愚かな戦争に突き進んだ。
日本経済が絶好調だった80年代、日本人観光客がカメラを首から下げて団体で観光する様を風刺するイラストや映画の1シーンがあったが、観光客は観光業者には有難いが、現地の人たちにすれば迷惑な存在だ。今は、もっぱら中国人観光客が主役だが、自分たちが手にできない高級ブランドを買い漁る外国人をやっかむのは当然だ。
ましてや、自分が海外メーカーのせいで失業し、貧困生活を送っているとすれば、やっかみでは済まない。それは憎悪になる。自分達の努力不足を棚に上げて、移民、他国、他企業のせいにすることは簡単だ。
オバマ大統領のスローガンはCHANGEだった。トランプ大統領に期待されているのはDESTROYだ。従来の価値観を破壊することを期待されている。しかし、メキシコ国境にメキシコが費用を負担して壁を建設することはあり得ない。また、在日米軍の費用を日本が全て負担するというのも、日本に米軍基地を望まない多くの声があることを知るべきだ。日本が費用を負担しなければ、軍隊を本国に戻すことになり、それは巨額の移転費用と軍人のリストラを意味する。結局、幼稚な人気取り政策は、ほとんどが実現不可能だろう。
しかし、現実的な問題として、米国のみならず、関係国の議会や役人は、それに振り回される格好になり、本来なすべき政策が疎かになる。
アメリカは、従来のロシア、中国といった国家間の駆け引きよりも、イスラム世界のテロリストといった実態のない幽霊と戦う状況に苦戦している。もし、世界の警察としての役割が今まで以上に低下すれば、北朝鮮を始めとして、今まで頭を押さえられていた国、組織が大胆な行動に出てくることが予想される。
有権者が、それを望んだという言い方もできるが、第1・2次世界大戦当時の有識者には想像もつかなかった戦争という悲惨な事態に至った経緯と現在の状況は似ている。誰も戦争を望んでいないというのは願望でしかない。人々のやり場のない怒りがトランプ大統領を産んだ。ゲーム感覚で人生をリセットしたい大勢の人々がいる。
こうなると、冗談のつもりで書いた核ボタンのスイッチを押す初めての大統領になる可能性は否定できない。そうすれば彼に期待された暗黙のスローガンは現実のものとなる。
平成28年11月10日
DESTROYER誕生