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ナイトライド・ストーリー

Chapter 12

昨年は、色々と問題が発生したが、今年に入って状況は好転した。今までの経験から、何か問題があった後は、状況が好転するので、昨年起こった出来事は、すべて成長の過程で経るべき試練だったと言える。企業に限らず、すべての物事の本質は、順調な時よりも、むしろ不調の時に表面化する。特に、人間関係に如実にそれは表れるが、苦しい状況で応援してくださるお取引先の皆様とは、将来的にも良好な関係でお付き合いできると確信する。

すべての出来事は、偶然起きたのではなく、問題があったため、起こるべくして起きた。早い段階で解決した方が楽なのは、子供の病気と同じである。大企業でさえ、様々な問題で新聞紙上を賑わせているが、企業は、どこまで成長しても、思いがけない(予定通りと言うべきか)試練にぶち当たるようだ。世の中に完璧ということはないので、問題が発生することは仕方ないが、重要なのは問題が起こった時の対処方法であり、迅速かつ的確、冷静な対処を行えるかが問われる。まあ、何はともあれ、酒井教授が元気になり、毎日のように会社に来ていただけることが、最大の朗報と言える。

さて、大学との連携で、世界最先端の半導体を世に送り出し、世界一の半導体企業に成長するという我々のチャレンジングな取り組みは、投資家、お取引先様等、多くの勇気ある方々の支援のお陰で、紫外線LEDの開発に成功し、全く新しいマーケットを切り拓きつつある。そのポテンシャルの大きさは、究極は、白色照明ということで、以前にも記述した通りだが、膨大なマーケットが用意されている。

我々の課題は、この莫大な市場を取り込むために、どのように事業展開したらいいかというところに視点が移った。一般的評価によると、当社の企業価値は、分不相応な研究開発投資の結果、手持ちのキャッシュが減少し、それに見合った売上が計上されないことにより、企業価値が低下したということになるらしいが、数字には表れない特許や技術・ノウハウの蓄積、及び、紫外線LEDという製品が社会に認知され、「紫外線LEDと言えばナイトライド」と社名が業界に広く認知されるところとなり、サンプル供給が順調に広がりつつある状況等を勘案すれば、悲観するところは見当たらない。当社スタッフが、様々な荒波に曝されて、逞しくなり、会社としての結束力が強まったことも、何よりの価値と言える。

確かに、売上という指標を見た場合、当社は、2000年の創業以来4期連続の赤字を計上するが、これは、クリーンルームを備えた工場設備と研究開発を必要とする半導体ビジネスにおいては当然のことである。なぜなら、一般的に工場を建設するのに2年。それから装置が稼動して開発に1年としても、すでに3年が経過している。実際には、開発に何年もかかり、開発に失敗することもあり得るし、大企業の研究所では、10年以上研究を続けているテーマも珍しくない。その間、大企業であれば、従来の製品売上があるので、赤字にはならないが、ゼロから始めたベンチャー企業が、この間の売上を作れる訳がない。常識的には、売上が立つのは、どんなに早くても4年目以降となる。

当社に関して言えば、徳島大学の技術の蓄積と、非常識な程早い工場建設と装置立ち上げにより、設立2年後には早くも紫外線発光ダイオードの開発に成功し、サンプル出荷を開始した。海外も含めて、現在までに、500社以上の企業へサンプルを供給した。そして、これらの企業において、性能の評価が行われ、紙幣識別装置を始めとするセンサー用途を始め、光触媒と組み合わせた空気清浄機、樹脂硬化装置など様々な分野への応用開発が始まっている。

紫外線LEDは従来にないデバイスなので、これらを組み込む装置の設計を変更しなければならない。設計変更に約1年、試験機を組み上げた後、信頼性を始めとして様々な評価に更に1年ということで、量産に入るのは、早くてもサンプル供給から2年後ということになる。幸い、紙幣識別装置への採用が早く、既に、これらの装置には採用が決定し、装置に組み込まれて出荷されている。今後、空気清浄機、樹脂硬化装置、更には白色照明向けに量産が始まると予測される。従って、現状では、決算が赤字になっているが、これは紫外線LEDという今まで世の中に存在しなかった新しい半導体デバイスを世の中に送り出すために必要な準備期間と言える。

コンピュータのソフト開発受託や流通業と違い、売上、利益がすぐには計上できないのが、半導体ビジネスの宿命だ。すぐ売上が立つビジネスは、一般的に利幅が薄く、あまり儲からない。半導体ビジネスの場合、初期投資は嵩むが、当たると、急激に成長し、大きな利益を生み出す。私の役割は、世界の先陣を切った紫外線LEDビジネスを、従来の常識とはかけ離れたスピードと規模で、どこまで成長させられるかということである。そのためには、従来と同じような価値観とやり方では、実現することは難しい。

たとえば、米国の、ネットベンチャー企業は、ネットバブル当時、サービスを無料で提供することで、会員獲得を至上命題に掲げ、売上の変わりに会員数を企業価値に換算するというビジネスモデルを生み出した。このモデルの功績は、当時、あまり普及していなかったインターネットを急速に普及させ、パソコン販売台数を増大させ、通信インフラの急速な大容量化と拡張を後押しした。問題になったのは、このブームに便乗した二番煎じドットコム企業が大量に発生し、これらの企業が、実体が伴わないまま上場し、バブル崩壊とともに消失してしまったことと、インフラ関連企業が、急激に立ち上がった光ファイバーケーブルその他のインフラ構築のための過剰投資によって、設備過剰を招いたことである。

売上ではなく、会員数を企業価値に換算するというビジネスモデル自体は、現在、それらのネット企業が、売上と利益を立派に計上するようになったことから、正しかったことが証明されている。すなわち、利用者が増えた結果、サービス内容が充実し、広告料と仲介手数料で儲けられるようになった。

このように、新しいビジネスを急激に広めるためには、従来の常識を超えた新しい価値観を持ち込む必要がある。それは、なぜか。それは、一方で、新しい事業を起ち上げる事の難しさを表しているとも言える。当初、インターネット・サービスと言う不完全で、得体の知れないモノに対して、お金を払ってもらうことが難しかった。無料なら、利用するけど、お金を払う程のサービス価値はないという中途半端さがあった。それで、当時のネットベンチャーの経営者は、会員数を企業価値に換算するという苦肉の策を考え出した。このように、従来にないビジネスを社会に浸透させるには、大変な労力と、工夫を必要とする。

当時の、日本のベンチャー企業を見た場合、そのビジネスモデルは、米国の物真似がほとんどであり、○○ジャパンと付いた会社は、ほとんど、米国のビジネスモデルをそのまま持ち込んだ日本支社のような企業であった。従って、アメリカのバブル崩壊とともに日本のネット・ベンチャーバブルも終わった。その後の日本のベンチャー企業は、携帯電話関連、サービス、食品、流通、バイオといったところが、大部分を占め、ハイテク・ベンチャーは皆無と言っていい状態が続いている。これは、社会全体が、安易な方向を向いている証拠である。もっと手間と時間をかけて、世界中のどこにも負けないような技術を開発する企業を応援し、育てようという国としての明確なビジョンがないからだ。

日本が得意とするデジタル家電分野を更に一歩進めた、世界中のどこも真似できないような付加価値の高いビジネスを生み出すのは、大企業の役割ではなく、ハイテク・ベンチャー企業の役割である。総花的発想は、何も生み出さない。ハイテク・ベンチャー育成のための思い切った産業政策が今こそ必要だ。意思決定の遅い大企業から、従来の概念を覆す全く新しい商品は出てこない。国の産業政策として、ハイテク・ベンチャーが公開市場で資金調達できる仕組みや税制面その他で優遇するということが必要だと思う。

私は、紫外線LEDこそが、日本が世界を相手に優位にビジネス展開できる戦略商品になると確信している。紫外線LEDを様々な製品に応用した家電、産業機器、照明などが、高付加価値の戦略商品となって、好調なデジタル家電景気を一層強固なものにする。そのためには、我々が、大量に安価に、紫外線LEDを供給する体制の整備が急務である。その実現のためには、我々の力だけでなく、国全体を挙げた産業政策が不可欠である。

株式市場は、この春から一進一退の状況ではあるが、以前のような下がる一方という状況ではなく、活気を取り戻しつつある。今のマーケットは、我々のような成長余力のある企業が上場することを、求めているはずだ。上場しても、潰れはしないけれども、急成長が見込めない企業ばかりで、市場は、もうそろそろ嫌気が差しているのではないか。東証マザーズ、大証ヘラクレス(当初は、ナスダック・ジャパン)と言った新興市場は、設立間もないハイテク・ベンチャー企業の資金調達を目的に創設された経緯を持つ。

ところが、その実体は、どうか。日本にハイテク・ベンチャーといえる高度な技術力を持った企業が少ないことと、ネットバブルの後遺症で、上場審査が、保守的になっていることが原因と思われる。ハイテク主導型の産業を活性化し、産業力を強めるために、新興市場の役割は重要だ。海外からお金を引っ張ってくることができる輸出企業の育成が重要だ。上場審査は、あくまで、成長性の見極めと、企業として絶対にあってはならない不正経理、社会倫理に反することが行われていないかといった最低限の審査に留め、具体的な事業の内容等に関しては、投資家の判断に任せるべきではないか。

そもそも証券会社や、株式市場の審査が、具体的事業内容や、事業の推移にまで、責任を負える筈はない。本家米国のナスダック市場では、その最盛期に年間数百社の上場とそれに匹敵する上場廃止という多産多死の文化があった。バブルは、崩壊したとは言え、この強引とも言える状況が米国への資金の集中を生み、復活が不可能と思われた米国経済を活性化したことは明らかである。日本は、そのバブルの最後で、米国から最高値で企業や株をつかまされた損な役割で、暗黒時代を更に長引かせてしまった。今度は、日本独自のビジネスモデルで、我々が攻勢に出る番だ。

それができるビジネスモデルは、日本お得意の製造業で、海外の企業が簡単に真似できない高度なテクノロジー、日本に限定されないグローバルなマーケット、急成長が見込まれ、且つ、投資に見合った大きなリターンが期待できるビジネスでなければならない。幸い、紫外線LEDは、これらの用件をほぼ満たしている。安価な紫外線LEDを組み込んだ付加価値の高い様々な日本製品が海外に輸出されるという、日本発の全く新しいビジネスモデルを実現するため、国、産業界、金融機関、株式市場、投資家の皆様の強力なご支援をお願いしたい。

平成16年5月20日

新事業年度にあたって

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