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ナイトライド・ストーリー

Chapter 14

今年で5回目を迎えた4月13日の創立記念日に、5周年記念のパーティをささやかながら開催させていただいた。日頃お世話になっている株主、金融機関、お取引先、従業員とその家族の皆さんに、感謝の気持ちを込めて催させていただいた。遠方からお越しいただいたご来賓の皆様から、お祝いと暖かい励ましのお言葉を頂戴した。

創立5周年記念パーティーの様子

創立5周年記念パーティーの様子

ベンチャー企業の経営というのは、今まで書いてきた通り、一筋縄では行かないものである。ほとんどすべての経営者が経験する、起こるべくして起こる様々な問題を、一つ一つ丁寧に解決していく。特に製造業の場合、その道のりは、長く、険しい。私も人並みに一通りの問題に直面し、乗り越えてきた。

自分なりに分析してみるに、私は、効率的に物事を判断し過ぎる。車で言うハンドルに遊びがない。だから、同乗者は、疲れる。私は、従業員に高い能力と成果を要求する。高い次元の要求について来られなければ脱落する。もっと長い目で物事を見て、じっくり判断すべきかもしれないが、この会社には、そんな余裕はない。なぜなら、急成長と高収益を義務付けられた会社なのだから、楽に楽しく働きたいなら、そんな会社は他にいくらでもある。我々は、短時間で完全燃焼して、驚くべき結果を出すために、この会社を設立したのだ。パラノイアしか生き残れないと言われたかつてのシリコンバレーと同じである。

同じ価値観を共有できないのであれば、この会社を去るしかない。完全燃焼で燃え尽きたご褒美に最高の名誉と、そのおまけとしてストックオプション等で莫大なキャッシュを手にすることが許されるのだ。私は、ここで、東洋と西洋の発想の違いを強調しておきたい。我々は、金が欲しくて、この偉業を成し遂げようとしているのではない。あくまでも、この偉業を成し遂げたという栄誉を勝ち取るためにやっているのだ。その結果として金銭的見返りがあるのだ。

今、この瞬間にも、平々凡々と毎日を送っている無邪気な方達とは発想が異なる。だから、燃えない仲間に分け前を与える程、我々は馬鹿でお人好しではない。今、会社に残っている従業員は、その資格を手に入れたのだ。おめでとう。今後、このストーリーの中で、1人ずつ紹介していきたいと思うので、楽しみにしていて欲しい。

ここ数ヶ月で、我々を取り巻く環境は、好転している。なかなか思うように進まなかった量産出荷が、まだ、量的には十分と言えないが、このところ順調に伸びている。紫外線LEDといえばナイトライドということで、指定してくださる取引先がほとんどである。特に海外向けが好調で、紫外線LEDのマーケットは、切り拓かれつつある。冷静に考えれば、マーケットがない筈はないのだが、弱気な時はどうしても物事を悪いほうに考えてしまう。

正直にお話しして、私がこの会社を設立して以来、精神的な平穏が訪れたことは一度もなかった。24時間、常に恐怖感と強迫観念にさいなまれてきた。どこかに逃げてしまいたいという弱い自分と強気に振舞う自分が同居してきた。それが、最近、本来の自分を取り戻しつつある。普通の精神状態でいられることが、こんなに幸せなことかと、あらためて実感している。心に余裕があると、冷静に物事を判断でき、他人にも優しく接することができる。今までなら、カッと頭に血が登ったり、必要以上に悲観的になっていたことが、違った角度から物事が捉えられるようになった。

ただ、この5年間に私が下してきた判断が誤っていたということでは必ずしもない。判断の結果として厳しい状況になったと言った方がよいかもしれない。それぞれの局面で、安易な方向を選ぶこともできたが、敢えて、厳しい選択肢を選んだ。それは、その厳しい選択肢の方が、会社の将来にとっては、良いという判断が働いたからである。安易な選択肢を選んでいたら、本当にChapter 11で終了していただろう。ということで、厳しい選択の帰結として、現在、最良の結果を導きだしていると自負する。

さて、明日に定時総会を控えて、少し緊張しているが、早くも5回目の決算を迎えることになった。私は、色々な意味で、この5期が最も厳しかったと実感している。起業したばかりの時は、創業の苦しみ。次に紫外線LEDという製品を産む苦しみ、そしてその製品を売る苦しみである。これらはビジネスの一連のサイクルだが、売るところは、自分達だけの努力ではどうにもならない。お客様が、その製品に価格に見合った価値を見出さなければ、どんな素晴らしい製品も、ただのガラクタだ。そもそも売れて儲かる製品が、素晴らしい製品であり、技術的にいかに難しく高度であろうが、そんなことは使う側はどうでもいい。コストが従来より安くなるか、コストが同じで性能が向上するかのどちらかしかない。

私が精神的に開放された理由は、この売れない理由が、潜在的にニーズが存在しないということではなく、ニーズがあることがわかったことによる。つまり、小さな紫外線発光を必要としているアプリケーションが多く存在することがわかって、霧が晴れたのだ。金鉱脈がそこに眠っていることが確認できれば、途中、多少の山や谷があっても苦にならない。鼻歌でも歌いたい感じだ。

今までの憂鬱な感じ、もしくは、虚勢を張って必要以上に強がって見せていた総会前とは違って、リラックスした穏やかな気持ちでいる。


最近の私の毎日は、早朝、ニューヨークの商社から送られてくるケンのメールに返事を書くことから始まる。早い時は、5時前に出社することもあるが、それは時差の関係で、現地と直接コミュニケーションが取れるからだ。Kenは、名前は日本人だが、日本語を全く話さないハーフのエリート商社マンで、私が出張した際、広大なアメリカ大陸を飛行機とレンタカーを使って一緒に客先を行脚したこともある。ハンサムで、礼儀正しく、情熱的性格の持ち主ある。道中、プライベートな話も聞かせてもらったので、一層親近感がある。私にとっては、英語の練習になるので、毎朝彼とメールをやり取りすることが楽しみでもある。ネイティブの外国人から見れば、私の英語はところどころおかしなところがあるかもしれないが、一応通じているらしい。

海外とやり取りをするのにメールほど、効率的なコミュニケーション手段はない。時差やお互いの都合に関係なく、確実にコミュニケーションが取れる。技術的な難しい内容も、文章にしてやりとりすれば、理解しやすい。このようにやり取りする重要な案件があるということだけでも、私にとっては嬉しくてしょうがない。このメールの返事次第で、商談が台無しになるかもしれないと想像するだけでもウズウズする。これは、一種の精神病かもしれないが、常に緊張感を持ち続けていたいのだ。敢えて無理な納期で引き受けて、納期ぎりぎりに製品を発送する快感は何物にも替えがたい。そういえば、先日の5周年記念パーティの時にも、来賓からの祝辞で、私が自分から進んで苦労を背負い込んでいるのではないかと言われたが、当たっているふしもある。それは、意識してそうしているのではなく、私の潜在意識の奥底でそのような恣意性が働くのだろう。

海外のメールを処理した後、その他取引先と従業員から毎日送られる日報、その他のメールに返事を出した後、恒例の朝の清掃が始まる。エントランス周りの窓拭きが、私の管轄だが、写真で見てもおわかりの通り、当社は、窓の面積が広い。わたしは、作業着に着替えて、夏場は汗だくになりながら窓拭きをしている。きれいに拭いても、雨が降るとすぐ汚れるので、きりがないが、これは仕事の縮図だと思っている。この単調な作業の繰り返しが重要なのだ。幸い、各グループリーダー、スタッフも早くから出社して一生懸命清掃をする。掃除振りを見ていると、ほぼ仕事振りに共通していることがわかる。今までの経験から言うと、掃除を手抜きする者で、優秀な者は、いなかった。掃除はいい加減だけれども、仕事はバリバリやるということはないと思って間違いない。一時が万事である。製造業で、清掃活動は、基本中の基本なので、偉そうなことを言うつもりはないが、最近の若者は、あまり掃除をする習慣がないと思うので、当社は、こういう文化を大切にしていきたい。

海外の取引先とやり取りをすればするほど、日本人の持つ、礼儀正しさ、潔さ、誠実さ、几帳面さといったことを感じる。ところが、このような日本人本来のこれら美徳が、失われつつあるように思われる。私は、当社の従業員だけでも、これらの美徳を兼ね備えていて欲しいと念願している。かつて経営者の鏡と言われた大先輩方が、ただの往生際の悪いインチキオヤジだったということが多いので、最近の若者を責めることは不公平だが、美しい文化を守って行きたい。

今回は、珍しくすがすがし気持ちで章をしめくくることができた。懲りずに毎回ホームページが更新されていないか確認して、読んでくださるナイトライドストーリーの読者の皆様にも御礼申し上げたい。毎度、お付き合いいただき、ありがとうございます。これからも変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。

平成17年6月22日

第5期定時株主総会にあたって

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