Chapter 60
先日、第23回優秀新技術・新製品賞の最優秀にあたる中小企業庁長官賞をいただいた。受賞の理由は、ただ単に改良したということだけではない革新性が評価された。即ち、現在の青色LEDベースの白色は、どんなに厚化粧したところであくまでも疑似白色に過ぎず、蛍光灯と同じ原理で、UV-LEDベースの太陽光に近い白色LEDを実現した革新性が評価された。全国から過去最多の537件の応募の中から選ばれたということも大変意義深く、長年の苦労が報われ、大変うれしい。
皮肉なことに、今回の東日本大震災が日本の中小企業の技術力の高さを世界にアピールすることになった。一言で言ってしまえば、ただの研磨技術、メッキ技術、研削技術、鋳造技術といった、ありふれた技術なのだが、その会社でなければ出せない特性がある。部品の値段も、一個あたり数十円若しくは数百円という安いものである場合が多いが、無くてはならない重要部品である。それら全国の強豪を退けて最優秀賞を頂けたのは、中小企業といえども、イノベーションが求められるようになったということかもしれない。
弊社のUV-LEDは、装置の性能を左右する重要な役割を担っている。特にセンサーに使用される場合、1ナノ(10億分の1)メートルの波長のズレも許されない。弊社は、幸い今回の震災の影響はほとんど受けていないが、安定供給のための対策を講じる必要性を感じた。しかし、実際には、顧客毎に仕様が異なり、毎年、性能向上とコストダウンを要求されるので、在庫を抱える余裕はない。ただ単に、同じ製品を作り続けるなら、事は簡単だが、性能を高めるために、研究開発をし、使用する材料も、より純度の高いもの、放熱性の良いものというように、常に改良が加えられる。従って、いつ起きるかわからない災害のために、製造場所を分散させたり、在庫を確保するという対策を講じたくても、ビジネスが成り立たなくなる。客先が、その分のコスト増を容認してくれない限り、対応は難しい。
さて、このところ、原発論議が盛んだが、原発事故の補償費用を国が肩代わりするということは民主国家としては考えにくい。原則としては、まず事故を起こした事業者の責任であり、それが難しければ電力業界全体で責任を負う。それでも駄目なら、税金を投入するというのが筋だ。関東地方の1民間企業にすぎない東京電力に対して、全く恩恵を受けていない全国民の税金を投入することは納得し難い。取り敢えず、関東の電気料金の値上げ、賄いきれなければ全国の電力会社も協力して値上げしたらよい。なぜ、そのような当事者の努力なくして、いきなり増税議論になるのかさっぱりわからない。受益者負担が原則であり、各家庭、各企業が、電気を使用する量に応じて応分の負担をすればよい。関東の電気料金が3倍になれば、東京一極集中解消の特効薬になる。
また、原発の存続か廃止かという議論は、全くばかげている。どちらにも理があり、今後の日本の目指す方向性が決まれば、自と決まる。もし本当に廃止するのであれば、今まで安全だと言ってきたのは、嘘だったと認めることになり、原発推進派の自民党、歴代電力会社幹部は、賠償責任を負わなければならない。福島原発2号機は大丈夫で、1号機が駄目になった理由は津波であり、非常用電源だった。つまり、非常用電源さえ確保されていれば問題は大きくならなかった。そうであれば、非常用電源の設置方法を改善したらいいではないか。稼働から40年間何事もなく、今回の想定を越えた巨大地震にも炉心は耐え、緊急停止した事実は評価されるべきだ。日本人は、つくづく自虐的な損な性格だと思う。だからいつまでたっても景気がよくならないのだ。未だにバブルのトラウマから立ち直れず、発想が委縮し、今回の震災で更に落ち込もうとしている。何かを成し遂げる場合、失敗はつきものだ。ノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏の発明も、失敗がきっかけになった。失敗は成功の母というではないか。ここで原発を止めることは、今までの努力をどぶに捨てることになる。非常用電源を確保することはそんなに難しいことだろうか?将来、日本人は放射能に汚染されながらも、原発を存続したということで、海外の歴史教科書に載るかもしれない。
ただ、日本の国際競争力強化という観点からは、廃止しても構わないとも考える。常々、日本の企業の製品、サービスに独創性が欠けるということを指摘してきたが、原発を廃止することで、電気料金が上がり、日本の全ての家電製品から工場の製造現場に至るまで省エネが要求されることになれば、そこに製品の独自性が生まれ、国際競争力が向上する。ドイツ、イタリアの廃止決定には、そういう思惑もある。
また、三権分立した法治国家という観点からすれば、商法上、会社は株主のものであり、株主価値の最大化が経営者の役割なのだから、まだ償却の終わっていない高価な発電所を稼働せずに廃棄するなどとんでもない。東電が、廃止するのは仕方ないとしても、安全に稼働している他の電力会社まで稼働を止めるとなると、経営陣は株主代表訴訟で訴えられる。株主不在で、国が勝手に民間企業の経営方針を決められるなら、ロシア、中国と変わらない。ある新聞記者は、電力会社はお役所以上にお役所的だと漏らしたが、何事も独占というのはよくない。厳しい競争に晒されないから、独善的になる。今回の震災をきっかけに、電力事業を開放し、新規参入を認めるべきだ。たとえば、自動車用のエンジンで発電機を回して、排熱でお湯を沸かせば、もっと効率的なエコ住宅が作れる。消費電力の変動も、エンジン回転数を制御するだけで対応でき、蓄電池も不要になる。遠くにある火力発電所の大型タービンで発電して送電するロスも含めれば、効率は上回る。燃料価格は、道路整備税が掛からないから、半額以下に下げる。無骨な電柱がなくなるから、送・配電コストも掛からず、街や山の景観もすっきりする。災害時も、地域全体が停電しないから、復旧も早い。
また、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーから産み出される電気は高い値段で国が買い取る。果物や野菜が産地で値段が異なるのと同様、○○県産の太陽光発電のエネルギーは、他の産地より環境に優しいから高値で取引されるといったように、差別化を図ったらいい。
いずれにしても、実の無い足の引っ張り合いはやめて、将来が楽しく思えるような本質的な議論をやって欲しい。
平成23年6月17日
失敗を乗り越え、楽しい未来を!