Chapter 76
今、世界は大きな転換点に差し掛かっている。安い労働力を武器に発展してきた新興国が労働問題によって色褪せ、市場も飽和しつつある一方、米国がシェール革命に沸き、そして、日本がアベノミクスによって長い眠りから目を覚ましつつある。
欧州は、相変わらずソブリンリスクから抜け出せず、インターネット革命によって独裁政権が倒れたアラブ諸国は、貧弱な政権が国を統治し切れず、またBRICs新興国は、賢くなった市民の権利主張が活発になった。更に、北朝鮮は孤立を深める。従って、世界のパワーバランスを考えれば、米国と日本の復権は、歓迎されるべきことであり、大袈裟にいえば世界平和に適うことでもある。
私は株をやらないので、何の恩恵も受けないが、株価が連日上昇することは、精神衛生上好ましい。日本の製造業は、6重苦と言われた厳しい環境を逃れるため、生産拠点を海外にシフトした。従って、円安によって決算上売上や含みが増える格好になり、業績は改善したように見えるが、実際には、国内の工場閉鎖で多くの雇用が失われ、生活実感として景気の良さを感じられない。
安倍新政権になって、無意味なバラマキがなくなり、経済の危機的状況に危機感を持って対応するという方向性が明確に打ち出されたことは高く評価されるべきであり、世界がそのような方向性を評価していることが株価に反映されている。しかし、株価はあくまでも人気投票であり、実体が伴わなければ下落する。
私は、LED産業に携わって13年にしかならないが、この間、LEDが急速に成長し、成熟化する姿を目の当たりにした。1993年に青色LEDが製品化されてから、20年で市場規模が1兆円を超えた。特許の期限が奇しくも20年なので、技術的な価値は既に失われたと言っていい。実際、中国においてもLEDが結晶から生産されるようになり、コモディティ化した。しかしながら、だからといって、もうLED産業が日本に必要なくなったということにはならない。アカデミックな意味合いからすれば、化合物半導体のn型とそれの対をなすp型が開発された時点で関心は薄れた。しかし、LED照明の電気エネルギーを光エネルギーに変換する効率が未だ40%に満たないという実情を見れば、先進国の研究者達が果たすべき役割は沢山ある。
イノベーションという言葉には、従来にない全く新しい技術というニュアンスが強いが、現実的には従来にない全く新しい技術など存在しない。長年に亘る地道な研究の積み重ねに過ぎない。また、技術的にイノべーティブであればある程、ビジネス価値を生み出すには時間が掛かる。今の日本に求められるイノベーションとは、技術的イノベーションではなく、ビジネス価値のイノベーションだろう。
そのような意味において、未だGaN系LEDにはイノベーションの余地が沢山ある。
平成25年05月23日
本当のイノベーションとは