Chapter 198
台湾でMicro LED Forum 2023が開催され、講演してきた。5年前にも講演したが、台湾政府の全面的バックアップで、マイクロLEDディスプレイ産業の育成を目指していることが分かる。先進国のLED業界は、中国のLEDメーカーの安売り攻勢に晒されて、多くは撤退、若しくは青息吐息になっている。そこで台湾のLED業界は、生き残りを懸けて、マイクロLEDディスプレイの実現を目指している。日本も、こういう姿勢は見習った方がいい。業界が消滅する前に、生まれ変わりを支援する。潰れてからゼロから育成するのは効率が悪い。熊本へのTSMCの工場誘致は、大金をばらまいて日本の産業政策の失敗を自ら認めたばかりか、効果も不確実な気がする。それにしてもコロナ前後で環境が大きく変わった。絶好調だった中国メーカーも且つての勢いはなく、マイクロLEDディスプレイへの関心も以前より低くなった。しかし、開発は確実に前進している。5年前は、TV、スマホか、せいぜいスマートウォッチのディスプレイが想定アプリケーションだったが、AR・VRグラスと、車やオフィスの透明ディスプレイに用途が絞られてきた。理由は、製造コストが高いので、付加価値の低いTV、スマホ等には使用できないという事情によるが、単なる夢物語が、現実的になってきていることがわかる。多くのSF映画の中で、透明ディスプレイによって3D画像が映し出され、主人公が手振りで操作する。こういうクールなディスプレイであれば、たとえ価格が高くても、消費者は購買意欲を掻き立てられるというのだ。講演で発表したのは、AUOとTianmaの若い技術者だったが、聞いていて、夢があって面白いと感じた。欧米、日本では、実現可能性が低い、コスト採算が合わないといった事情で、開発予算さえつかないような技術開発に、台湾、中国のメーカーは、真剣に取り組んでいる。米中の半導体戦争で勝利するのは、米国ではなく、中国と確信した。 半導体が使用される製品の需要を創出した者が勝つ。目的と手段が明確でなければ勝てないのは、スポーツの世界でも同じ。ハーバード大学のMBAでも教えない、革新的製品を生み出す方法というのは、教える術のない想像力、情熱、創造力の3つ。いくら、中国のハイテクを排除しようとしても、消費者は、クールな製品を求める。しかも、価格が米国製の半分だとしたら、どちらを買う?勝敗は明らかだろう。但し、クールな製品を実現するためには、確実な技術が前提になる。そのような観点からは、今回発表したフォトニック結晶のような最先端技術が、クールな製品実現の鍵になる。日本は、中国や台湾の情熱のある若い企業に足りない知識、経験の穴を埋めてあげる技術を提供する役割を担うことで、今後の生き残りを図ったらいい。それが嫌なら、もっとアプリケーションの開発に力(お金と人)を入れなければならない。
コロナの脅威が去って、また、人々の関心がクールな技術に移った。Web講演は、樂でいいが、蒸し暑い台湾で、滝のように汗をかき、何かの臭う街を通り抜けて、聴講者の反応を肌で感じる方が、遥かに楽しい。いくら技術が進歩しても、リアルな体験には敵わない。
令和5年9月7日
Micro LED Forum 2023のリアル開催