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ナイトライド・ストーリー

Chapter 55

サッカーアジア杯で日本が優勝した。私は、カタール戦で選手が一人欠けた状況を逆転勝利した後、本田圭佑選手が、「泥臭く戦って、運を呼び込もうと思った」とコメントしたのを聞いて優勝を確信していた。人間は、偏見に満ちている。澄んだ目で見れば明らかに、そうとわかるのに、偏見でものを見るために正しい判断ができない。特に、何か新しいことをやろうとすると、大多数の人は反対する。

サッカー日本の勝因を一言で言ってしまえば、ザッケローニ監督の選手選考と采配だろう。以前、勝てない岡田ジャパンで触れたことがあるが、有名選手を使わないことには勇気がいる。弊社においても、全く製品が売れなかった時期、VCの社外取締役から、「売上を立てるために方策はないのか」「売れる製品開発はどうなっているのか」と、毎月のように指摘された時期があった。そのような時、東京に営業所を開設したり、業界に詳しい営業担当役員を採用する等、VCの追及をかわすために労力を使った時期があった。

結局、そんな事では問題の解決にはならなかったのだが、いかにも仕事をしたような気になって、それなりに気が紛れる効果はあったが、ただの責任転嫁に過ぎない。経営は儲けることが目的であり、株主を一時的に安心させることが目的ではない。結局、一向に売り上げが立たないことで、財務状況は更に悪化し、大企業出身の役員、高学歴エンジニアは全員いなくなり、株主にも見放された。ところが、そのことによって、人件費は大幅に減り、私は誰にも気兼ねすることなく、会社をコントロールできる自由を手にすることができた。

新製品、新技術の開発においては、いわゆる死の谷といわれる厳しい時期がある。製品が画期的であればあるほど、死の谷の期間が長いといっても過言ではない。この期間は、機が熟すのをひたすら待つしかない。今、大ヒットしているアップル社のiPadは、1993年に発表して失敗したPDAニュートンのリベンジに過ぎない。スティーブ=ジョブズは、1985年に自ら雇ったCEOジョン=スカリーに辞めさせられたが、97年、ニュートンの失敗で倒産寸前のアップル社に報酬1ドルで復職し、13年掛けてiPadを成功させた。iPadの成功にニュートンの発売から17年の際月が費やされている。最終的にiPadを成功させたのはジョブズだが、構想自体はジョブズのものでないことがわかる。

インタフェースをタッチパネルにすることは、誰でも容易に考え付くことだが、ビジネス的に成功させるのは、た易いことではない。その道程には、iPodとiPhoneの成功がある。また、それを実現する技術とタイミング(コストがタイミングを決める)、そして、その気にさせるマーケティング力の3つが重要だ。ジョブズが、デザインに強烈なこだわりを持っていることとプレゼンがうまいことは有名だが、この詰め将棋のようなビジネス戦略が天才と言われる所以だ。さすがの天才も、ここに至るまでに多くの失敗を経験している。結局、失敗にめげない強い精神力が天才になるための条件ということかもしれない。

話を戻すが、ザッケローニ監督も、天才的な采配で日本を勝利に導いた。ただ、日本サッカーが過去の多くの失敗から学び、成長したことも忘れてはいけない。

さて、相変わらず、日本の政治はゴタゴタ続きだが、現状を冷静に分析すれば、ニュートン発表当時のアップル社といった感じだろうか。そのように考えれば、あまりの不甲斐なさに悲観することはない。今迄の変える意志のない政治から、変えなければならないと気付いただけでも大きな進歩が見られる。 日本の科学技術、製品のクオリティが世界トップクラスであることは、誰も疑わぬ事実である。これに、世界最高の政治システムが加われば、鬼に金棒だ。後10年もすれば、政治の世界にもザッケローニ監督のような首相が現れて活躍するだろう。

そのためには、政治システムを変更し、有名でなくても、若くて本当に政治ができる政治家を育て、選べるシステムを構築しなければならない。ジャパン・シンドロームも、杞憂だったと笑えるよう、今から準備しよう。

平成23年1月31日

サッカーアジア杯優勝に思うこと

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