Chapter 70
人間は頭がよくなり過ぎると当たり前のことが判断できなくなるらしい。今日の日経に、世界的に製造業の景況感が悪化しているという記事があったが、先進国のみならず新興国でも製造が落ち込んでいるとはどういうことか。
DRAM、太陽電池、液晶パネル、LEDは今や4大惨業と呼ばれているが、近年、アジアでバブル気味だった設備投資で、サバイバルゲームの様相を呈している。政府による手厚い育成政策により、収支勘定がメビウスの帯と思われた中国企業も、魔法があった訳ではなく、企業の淘汰、そして適正な製品価格競争に突入することが分かった。
半導体を製造するために必要な設備、高純度原材料は、中国で製造したからといって安くなるわけではなく、むしろ先進国から輸入する分高くつき、性能、歩留まりが低い分、競争力は更に低くなる。
嘗て日本企業の強みは、車にしろ、家電にしろ、先端技術を低価格で実現した製品力にあった。箱バン(商用車)でさえスポーツカー並みの電子制御DOHCエンジン、高性能車はポルシェも驚くツインターボ、電卓は太陽電池パネル搭載で電池不要の超薄型、それも低価格といった驚くべき製品を提供して来た。液晶TVは電卓の発展形である。ところが、車はハイブリッドがあるが、液晶TVの次はどうしたのか。
我々は中国のiPhoneコピーいわゆる山塞機を笑えない。世界中の大企業が金太郎飴のようにiPhoneのコピー作りに血道を上げ、売れないと嘆く姿は喜劇としか言いようがない。性能が高まった中国の山塞機との違いはアップルのロゴが付いていないことだけだ。
20年以上前のことだが、新しモノ好きな父は高いお金を払って、ソニー製の「マビカ」というアナログ静止映像をフロッピーディスクに記録するカメラを買って来た。デジカメの前身だが、画質が悪く、ボケた写真を見て、お金の無駄と思った。また、90年初頭、プレイステーションが販売される数年前、私がイベントの仕事をしていた頃、ソニーが映像制作会社でゲームソフトを作っていた。このように、全ての製品には布石があり、地道な努力の結果として成功があった。今、日本でこういう出来損ないを目にすることはないが、中国の廉価電気自動車、山塞機、鉄屑を溶接して作ったランボルギーニを見れば、将来、これらが本物に化けることは容易に想像がつく。
欲しいモノは何かと問われれば、紙のように薄く曲げられる電子ペーパー端末(スマホ)、腕時計一体型超小型携帯電話、万年筆のように胸ポケットに入れて持ち歩ける高性能デジカメ等、アイデアはいくらでも浮かぶ。
不景気の原因は意外と単純だ。キーワードは、「失敗は成功の母」。失敗を恐れず、出来損ないを一杯作ろう。
平成24年09月06日
不景気の原因を考える