Chapter 71
このところ大手家電メーカーの巨額赤字決算が相次いで発表されている。
金額の大きさには驚くが、これは裏を返せば、多くの従業員を解雇せずに堪えている姿と捉えることもできる。だから、短絡的にこれら家電メーカーの経営陣の責任を追及すべきではないと思う。数年前迄は大幅な黒字を出していたことを鑑みれば相殺されたに過ぎない。
むしろ、この厳しい環境の中で雇用を維持しようと努力していることを評価すべきではないか。私も2000年の創業以来7年間赤字に苦しんだが、それでも従業員に高給を払いボーナスも支給し更に新規雇用もした。株主からは、毎月赤字を叱責され、一刻も早く赤字を解消することを要求され、辛い思いをした。
従業員にしてみても、好業績の時には若干のボーナスの上積みはあったかもしれないが、業績が悪化したからと言って首を切られたのでは堪らない。日本が強みとしてきた家族的経営が薄れ、欧米のような自分のキャリアアップにしか関心のない利己的な社会になる。
私は12年以上の経営で、短絡的に物事を判断すべきではないことを身を持って経験した。弊社は累積損失が最大で11億円を超えたが、8年目で黒字化し、リーマンショック後の厳しい環境に於いて5期連続増収増益を達成する見込みだ。ちょっとやって見込みがないから止めようでは今の我々はない。ちなみに弊社と同時期に創業した韓国、台湾のLEDベンチャーは、一時期好調だったが、今は跡形もない。生き残り組は大手に買収され、他は全て倒産した。
2000年代前半、日本の家電メーカーの業績は絶好調であり薄型TVが売れに売れた。それ以前に薄型TVで出遅れたソニーがTV販売シェアを落とした。あそこでソニーはTVから手を引くべきだったというのは結果論に過ぎない。クリステンセンのイノベーションのジレンマそのままだ。
ビジネスには波があり良い時もあれば悪い時もある。それはある種の必然である。それは人間らしさといってもいい。好業績が続けば油断し、逆に厳しければ気を引き締める。だから波は避けられない。
好業績が長く続く会社の決算を見ると、実際には様々な製品が浮き沈みを繰り返しながら、全体として少しずつ売上が上昇している。大体、日用品、食品といった内需型企業にこのような傾向がみられる。しかし、半導体や家電といった電子部品業界ではアップダウンが急になった。これは技術進歩が早く、陳腐化するサイクルが短くなったことによる。先端分野は巨額の設備投資が必要なのでギャンブル性が増した。
また、半導体が容量を増やせば付加価値を増やせるのと同様に、TVも画面サイズに比例して価格が高くなるという都合のいい商品であったため、毎年、画面サイズを拡大し売上も増やすことができた。かくして薄型TVはパソコン以来の美味しい商品となった。
しかし、ムーアの法則も限界に近付き、画面サイズも60インチにもなれば持て余し気味になり、景気刺激策の反動と新興国の景気減速で売り上げが頭打ちになった。
頼みの高級白物家電は高付加価値ではあるが、TVのように大量に売れるものではないし、サイズを拡大するといった成長も期待できない。
スマートフォンに関しても携帯電話の発展型に過ぎないので、携帯が普及し始めた頃のような成長期待は既にない。前のChapterで私がアンドロイド携帯をiPhone山塞機と揶揄した通りである。
従って、今後、家電分野を牽引して行くような革新的商品を生み出すことが家電メーカーの使命である。
原点に立ち返って、楽しくなるようなアイデアを考えよう。
「革新は、実は、たわいのない夢を大切にすることから生まれる」 井深 大
平成24年11月05日
家電メーカーの赤字決算に思うこと