Chapter 72
日本と韓国の選挙が一段落した。
日韓両国民に共通する願いは景気をなんとかして欲しいという一点に尽きる。
日韓の政治のかじ取りを考えると、日本の方が簡単である。なぜなら、日本は対外債務が少ないので、国際金利の上昇を気にせずに政策実行できる。従って、思い切った経済政策をやればいい。アベノミックスはそういう根拠に基づいている。これを実施すれば、まず、一時的に株価が上昇した後、実体経済に期待した程の効果がないことが判明し、財政悪化を嫌気して株価が下がり、金利が上昇し、円が安くなる。そして、日本の製造業の国際競争力が回復し、生産拠点が海外から回帰すると想定できる。
一見もっともらしいがこの発想は甘い。従来のような公共工事一辺倒のやり方では、公共投資終了後の景気低迷と財政悪化という最悪のシナリオが待ち受ける。それに、円安になった頃には製造業が弱体化し市場から退場している可能性が高い。
従って投資とそれに伴うシナジー効果を計算に入れ、投資とその経済波及効果をシビアに見積る必要がある。そのように考えれば産業の再生というより育成のための政策でなければならない。従来のような経営が悪化した大企業やその下請け企業救済ではなく、大企業からスピンアウトした技術者グループが、起業するのを後押しして国際競争を勝ち抜けるよう支援する。小泉政権の産学連携と発想は似ているが産学連携の失敗は経営に疎い教授が経営に関与することで市場原理が働かなかったことによる。エンジニアスピンオフ型ベンチャーの場合は、ビジネスの実体をよく知っているのでうまく行く確率が高く、リストラの受け皿にもなる。
4年前の米国大統領選で流行ったクリーンエネルギー政策は埋蔵量が100年を超えると言われるシェールガスの登場によって時代遅れになった。そもそも中国製の安いソーラーパネルを敷設したメガソーラー発電は国内パネルメーカーには恩恵がない。
また、ある程度成功したベンチャー企業が上場というイグジットではなく、M&Aで売買されるマーケット環境が必要だ。日本ではある程度成功しても大企業に買収される事例があまり見受けられない。弊社も値段さえ合えば買収に応じてもいいと考えるがそんなオファーさえない。
また、海外特にアジアの若者がベンチャーを起業し易い経済特区を設けたり、就労ビザを取得し易くするといったことで、海外の優秀な人材を取り込むことも重要である。日本の若者も海外の肉食系若者に触発されて、草食系ではいられないことに気付く。
既に韓国、台湾が成功し、中国が後を追っているコモディティ製品量産型ビジネスモデルは陳腐化している。日本はその逆を目指せばいい。少ない生産量でも付加価値の大きいビジネスを数多く作ることが重要になる。また、少子高齢化という弱点を強みに変えることができるビジネスを産み出せばいい。将来全ての国が同様の問題に直面する。
有能な監督はあらゆる可能性を想定して手持ちの選手で最強の戦い方を考える。
来年2月のイタリアの選挙結果次第では、また円高に戻る可能性もある。
2012年の締めくくりとしては、政治に過度の期待をせず、各個人、企業が強くなることが不況脱出の鍵となる。
「運命は勇敢な者に味方する」 ウェルギリウス
平成24年12月21日
日韓の選挙結果から思うこと