Chapter 83
私はつくづく運がいいと感じる。このストーリーの書き出しで、成功した経営者には重要な巡り逢わせがあると書いたが、私の場合、良いことも悪いことも絶妙のタイミングで訪れる。
即ち、今期は弊社にとって5期増収増益から一転赤字に転落する巡りの悪い年になった。そして、その試練を乗り越えるためにあらゆる対策を講じる羽目に陥った。特にそれまで弱かったハイパワー製品を充実させ、価格を下げるためのあらゆる手立てを尽くした。それは事業が好調な時であれば、手ぬるい対策になりかねなかった。しかし、私は、このままでは会社が潰れると確信し、どうせ潰れるなら思い切った対策を取ろうと決意した。
そんな中、政府間協議INC5に基づいて水銀に関する水俣条約が締結され、2020年以降、水銀の製造、貿易が制限されることが決まった。これは、半導体露光、プリント配線基板、樹脂硬化といった産業分野で大量に消費される紫外線ランプがUV-LEDに置き換わるという方向性を明確にした。従来、UV-LEDは、出力が弱い、コストが高いという理由で、切り替えが進まなかった。
UV-LEDは、弊社が最近発表した製品が、波長385nmで50Wという10年前の100倍近いハイパワーに達した。そして価格も、単価1万円程度と、劇的に下がった。半導体の強みは量産すればするほど価格が下がることであり、今後も更に価格は下落し、現在の白色照明用LEDと同程度まで下がる。こうなると水俣条約に関わりなく切り替えが進むことになる。
弊社が世界に先駆けて手掛けたUV-LEDは、産業的に開花するまでに14年掛かった。次年度は、いよいよ待ちに待った開幕本番といった状況にある。今の私の心境は、受験生が試験前にやるべきことをやり尽くし、すがすがしさを感じる一方で、早く試験に臨み実力を試したいという、逸る気持ちを堪え切れない状況だ。
ビジネスには想定外の出来事は付きものなので、そんなに安易には行かないかもしれないが、今ならバッターボックスに入って甘い球が来れば、あわよくばホームラン悪くてもセンター前には転がせる自信がある。
水銀ランプビジネスは、効率が低い、寿命が短い、照度が不安定といった、扱いがやっかいな光源を安定して製造に使用できるようにすることにビジネス価値を持たせてきた。しかし、UV-LEDは、そういった不安定要素がなく、照明器具を作るのと同じ簡便さで、それも超小型化できる。専門的な技術やノウハウが必要とされた半導体露光、PCB製造、液晶パネル製造といった分野の参入障壁が低くなり、無名の電機メーカーがこれらの分野に参入できる時代が到来する。
とまあ、夢は広がる一方だが、こんな楽観的な性格でなければ経営者は務まらないのかもしれない。いずれにせよ、私とご縁があった皆様方に、(必ずしも良いご縁があった訳ではない方々にも)この場を借りて御礼申し上げたい。
ありがとうございました。今後とも、宜しくご支援、ご鞭撻の程お願い申し上げます。
平成26年03月27日
災い転じて福となす